呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
「前エルにアプローチしていた男性いたけど、なんで断っちゃったの?」
「ええと、そうね……それは……」
ラシェルが皇宮を出て旅をしている最中や、魔塔で働くようになってから、何度かプロポーズされたことがある。それら全てを断ったのは、相手の男性に不服があった訳ではない。
ラシェルだって一人の女性だ。家庭を持って夫と子供と幸せに暮らしたいと、夢見たことだってある。
けれど元皇女のラシェルが子供を産めば、その子は皇帝の孫だ。縁は切ったとは言っても何が起こるか分からない。
万が一存在が露呈し、後継者争いに巻き込まれたら。もしくは皇帝が殺せと命じるかもしれない。娘が欠陥品と言うだけでも恥だと思っているのに、その上平民と結婚して子供を産んだとなれば、父も黙っていてはくれないかもしれない。
だから一生、独り身のままでいようと決めている。
若い頃は時折男性からアプローチを受けたりもしたが、二十代半ばを過ぎたここ最近は、そんなこともすっかり無くなりホッとしているくらいだった。
ラシェルがどんな理由を返せば良いのかと言い淀んでいると、アルベラが訳知り顔で意地悪く口元を歪めた。
「どうせ身の程もわきまえず、もっといい男を捕まえられると思ったら、婚期を逃したんでしょ。若い頃にはよくあんのよ、自分には価値がある。もっと相応しい相手がいるはずだ、なんて勘違いをね」
「そう……その通りなのよ。うふふ、私ったら若さしか売りにするものが無かったのに、掴み損ねてしまったわ」
「ほらね、そうだと思った。ナタリーは気を付けなよ。まだ18だからって余裕ぶっていると、いずれこうなるんだから」
「はぁーい」
ザブザブと貝殻を洗う水が冷たい。
私は今、幸せよ。
不満なんて何もない。
ただ穏やかに、誰かの役に立つ仕事をして暮らせたらそれでいい。
誰かを愛し愛されたいなんて思っては、それこそ望みすぎというものなんだから。皇宮から生きて出られただけでも、十分よ。
ラシェルは貝殻の中に自分の気持ちを閉じ込めるように、二枚貝の殻をそっと閉じた。
無理に閉じたところで貝殻は、すぐにまた開いてしまうのに。