呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
「俺、平民の出だけどさ、自分が住んでいる場所がどこかなんて、アカデミーに入学して初めて知ってんだよね。そもそも地図すら目にしたことがないから、自分の国の名前は知っていても、地図上でどこが自分の国かすら分からなかったし」
――――っ!!
「エルは農村の出なのに随分と博識だね。宿屋を営んでいた俺の家よりもずっと、高等な教育を受けられたみたいで羨ましいよ」
綻びが出ないようにと、綿密に決めておいたことが仇となってしまうとは。知識がある分、必要ないことまでベラベラと喋り、必死になって説明してしまった。
言われてみれば、普通の農民ならば大陸の地図など読めるわけが無い。分かってもせいぜい、自分の住む村の周辺くらいだ。学校に通うことすら珍しい中で、大陸の地図上に川や山を書き加えての説明など、普通は出来ないのに。
「あ……そう、ですね。父が物知りな人でしたので……」
「読み書きも完璧だし」
ラシェルは更に、ぐっと奥歯を噛み締める。
生活に困らない程度の、簡単な読み書きくらいなら農民でも親から教わるが、ラシェルは完璧過ぎた。
他の使用人達や農場長からも、どこで覚えたのかと初めは聞かれもしたが、先程エスティリオに答えたように「父が物知りな人だった」と言えば、特段怪しまれることも無く終われた。
皆たいして深くは考えない。読み書きの出来る人材がいるに越したことはないのだから。
一度受け入れられてしまえば、読み書きできることを隠す必要はない。持っている能力を存分に使って記録をつけ、資料を作成し、時には農場長の仕事も手伝っていた。
そうやってこれまで魔塔で過ごしてきたので、今更何かを疑ってくる人が現れるとは思わず、すっかり油断していた。
ラシェルは乾いた口の中を無理矢理に潤すよう、唾液をこくりと小さく飲み込んだ。
「お褒めに預かり光栄ですわ」
目を逸らしてはだめよ。余計に怪しまれる。