呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
口を必死にパクパクさせているが、出てくるのは空気の音だけ。悪態でもついているのか悔しそうに顔をゆがめ、エスティリオに向かって何か訴えかけている。
それには構わずエスティリオは、「お待たせ」と言ってラシェルの方へと近付いてきた。
「あ……あの方達はこれから……?」
どうするつもりなのか、というのはやはり気になる。これにエスティリオはニコッと笑って答えた。
「いいよ。好きなだけ蹴り飛ばして、頭を踏み潰してきても」
「あ……いえ、それは……遠慮させていただきます」
いくら襲われそうになったからといっても、もはや手も足も出ない無抵抗な相手を、痛め付けてやろうとは思わない。それに内3人は、既に剣で深手を負っている。
「いいの? 今ならやりたい放題だよ」
「私刑は禁じられております。魔塔主様が率先して法を犯してはなりません。余罪を含めて取り調べを行い、裁きを受けるべきかと」
「ははっ! エルは真面目だね」
エスティリオの正体を知った盗賊達が青ざめた。口の動きから「魔塔主だって?」とでも言っていそうだ。
「だってさ! よかったね、君たち。本当ならここで殺しちゃいたいんだけど、エルの言う通りにしようかな。何よりエルの前で殺生はしたくないし。兵を寄越すから、大人しく捕まっといてよ」
気軽な口調で言った
エスティリオは引き馬をしてデイジーを連れてくると、ラシェルに手を差し出してきた。手綱が握られた手と反対の左手は、立たせてもらったラシェルの腰へと回されて、ぐっと引き寄せられる。
ち、近過ぎるわ……。
馬に乗せられるわけでもなく、何故身体を密着させられたのか分からないラシェルは、内心で焦ってしまう。
「血の匂いを嗅ぎつけた獣に、食べられないといいね」
手を振りながら吐いたエスティリオの台詞に、盗賊達が必死に口をパクパクとさせて訴えかけているが、本人はお構い無し。
エスティリオが「じゃあね」と言うのと同時に、ラシェルの視界が歪み、体がぐにゃりとねじ曲がったような、それとも足元の地面が突然無くなって、ふわふわと浮いたようなとでも表現すればいいだろうか? とにかく不思議な感覚におそわれた。