呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
唯一の話し相手は母親だけだったが、全てのことは母から教わったし愛情も沢山貰ったからと、気丈に話していた彼女の顔が思い出される。
もしかしたら皇宮を追い出されたか、或いは自分から出てきたか。皇女であることを隠して暮らしているに違いない。
資料を握りしめたまま、エスティリオは農場へと向かった。
驚かせよう。そう思い、こっそりとラシェルの姿を探すも見つからない。
今日は休みか、それとも使いにでも出ているのかもしれない。ここで働いているのなら焦る必要もないし、また出直そう。
エスティリオが一先ず魔塔へ戻ろうとしたところで、「エルー!」と呼びかける声が聞こえてきた。
振り向いて見た先には、見知らぬ女性の姿が。
ラシェルと変わっていたのは髪の毛の色だけでは無い。顔の作りも、背格好も声も、全くの別人だった。
なによりもエスティリオを驚かせたのは、エルと名乗るラシェルの中に、極わずかな魔力を感じられた事だ。
エスティリオ程敏感に他人の魔力を感じられなければ気が付かない程度だが、それでも在学中のラシェルには、魔力は少しも感じられなかった。
見た目を変える魔法は存在するので納得がいくが、あの魔力はなんだ?
途中で魔力が宿る例など聞いた事がない。
ラシェルが書いたと思ったこの文字は、エスティリオの完全な勘違いなのか。
握りしめていた資料にもう一度目をやるが、どう見てもラシェルの書いた文字としか思えない。
声を掛けるべきかどうか迷い、結局何もしないまま魔塔へと戻った。
何が事情があるなら、自分が魔塔主という確固とした存在になってからの方が良い。その方が確実にラシェルの力になれる。
ラシェルの存在が気になりつつも淡々と仕事をこなし、就任の日を迎えた。
就任式に来ている群衆の中に、エスティリオはラシェルを見つけ目が合うと、彼女は明らかに動揺したような表情を見せた。
絶対にラシェルだ。
農場へ行きいよいよ対面すると、ラシェルは素知らぬ顔をしている。
自分が誰なのか気が付かないわけが無い。それとも記憶を消されたのか?
それならば、ラシェルが動揺する理由がない。
エスティリオに微笑みかけられれば、大抵の女性は頬を赤らめて恥じらうが、ラシェルの反応はそれとは全く違う。どちらかと言うと青ざめるのだ。
皇女であることが周りにバレると不味いというのは理解出来る。父親から存在をひた隠しにされて育てられてきたのだから、今更魔力無しの子がいたと知られては、色々と厄介な事になるだろう。
だがそれを、エスティリオにまで隠す理由は何なのか。