呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
ラシェルが深呼吸をして自分を落ち着かせている中、周りでは黄色い歓声が上がっていた。
スピーチが終わり、エスティリオが集まった民衆に向かって手を振っている。
新しい魔塔主が美青年であったことに女性達は歓喜し、隣にいるナタリーなどピョンピョンと跳ねながら興奮気味である。
「新しい魔塔主様、すっごくかっこいーい! 前の魔塔主様はおばあちゃんだったもん」
「ナタリーったら、おばあちゃんだなんて失礼よ。ライエ様は優れた御方だったでしょう?」
「そうだけどさ。いつも眉毛をこーんな感じで釣り上げてて怖かったじゃない?」
ナタリーが眉尻を上に引っ張って真似をしている。
「もう、やめてったら。厳しくも優しい方でした」
「はいはい。エルは真面目なんだからぁ」
改めてバルコニーを見上げると、エスティリオと不意に目と目が合った。
――え?
微笑まれたような気もして、みっともなく口をポカンと開けてしまったラシェルに、ナタリーがさらに興奮して肩を揺らしてきた。
「ねえ、今見た?! 魔塔主様、今こっち見て笑いかけて下さったよね??!」
「そっ、そうかしら。たまたまこちらに顔を向けた時に笑っただけよ」
「うふふっ、そうよね。あんなに遠くにいたら、一人一人の顔なんてよく分かんないか」
分かるわけない。ただの気のせいよ。
役者が舞台の上から自分に微笑みかけてくれたような気になってしまう、あれと一緒。
「私もう仕事に戻るわ」
「え、もう?」
「昼食の前に、イワハエネトルの種を撒いてしまいたいから」
「うわぁ、エルはこんな時まで仕事熱心ね」
また後でと言ってラシェルは、広場を逃げるようにして農場へと戻って行った。