呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
どんな反応をされるのかとドキドキしていると、エスティリオがこちらに向かって歩いてくる。
不躾に見ていたことを怒るかもしれない。
持っていた記録用紙にシワが寄るほど強く握りしめるラシェルの手から、エスティリオは用紙を取り上げた。
そのまま紙で顔をはたかれるかも。
ラシェルの嫌な想像に反して、エスティリオは記録用紙を見て穏やかな声で話しかけてきた。
「もしかして、君がエル?」
「……あ、はい。エルと申します」
「農場からの資料に幾つか目を通したけど、君の報告書や記録は素晴らしいね。他の者も見習って欲しいくらい」
「お……お褒めに預かり光栄にございます」
褒め……られた?
驚いて目を瞬かせるラシェルの手に、エスティリオは記録用紙を戻すと、そのまま農場から出ていった。
褒めて、行っちゃったわ。
魔法を使う科目以外は全て成績優秀だったラシェルは、褒められると最後に必ず一言付け加えられてきた。『これで魔力さえあればね』と。
だから、ただ褒められて終わったことが珍しく、後からじわじわと嬉しさが込み上げてくる。魔塔主であるエスティリオが、エルの魔力が如何程なのか分からないわけがない。欠陥品と分かっていてなお、褒めるだけに留めてくれた事が、ラシェルに自信を与えてくれる。
エスティリオに褒められるなんて、なんだか変な感じ。昔は私が褒めてあげる方だったのに。