呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
魔法薬部の魔道士達と食事を終えて、ラシェルは宿舎へとは戻らずに研究所へと戻ってきた。まだ気分がふわふわとして嬉しくて、この余韻にまだ浸っていたかったから。
椅子に座って水を飲んでいると、カタンッと音がした。
「誰?!」
出入口の方を見ると月明かりを背に、一匹の獣が佇んでいた。
「リオ?」
「ウォッフ」
小さく鳴いたリオはラシェルの方へと駆け寄ると、その隣に定位置とばかりにストンと座った。
ラシェルの顔に鼻を近づけて、フンフンと匂いを嗅いでいる。
「ごめんね、お酒臭いかしら」
食事と一緒にお酒も何杯か飲んできたので、匂うのかもしれない。
自分の限界がどのくらいなのか分からないので控えめにしてきたが、少しだけ頭がぼうっとする。
「リオ、あのね、今日は魔法薬部の皆さんとご飯を食べに行ってきたの。何だか仲間として認めて貰えたような気がして嬉しかったわ」
魔力無しのラシェルは欠陥品と呼ばれ、出来損ないの人間として扱われてきたが、魔力とは関係なく接してくれる人達と出会うことが出来た。
「それもこれも、私を信じて官職に就けてくれたエスティリオのおかげよね。少しは結果を出せているから、少なくとも足は引っ張っていないと思うんだけど」
お酒のせいか饒舌になって、いつもよりリオに話しかけてしまう。行儀よくお座りをしてじっとしているので、まるで「エルが何を言っているのか、きちんと分かっています」とでも言っているかのようだ。
「……ブランシャール長官でも禁書のある書庫への立ち入り許可は出せないのだそうよ」
ブランシャールがお酒に酔ってきたタイミングで、書庫への立ち入り許可を出す権限を持っているのか、それとなく聞いてみた。
『あの書庫への立ち入り許可なんて、俺くらいの身分じゃダメだ。もっと上の奴から貰わないと』
そんな返事が返ってきて、やはりちょっと調べ物をしたいからというレベルで立ち入れる場所ではないのだと思い知った。
魔法薬部の長官でもダメとなると、それより上は数えるくらいしかいない。
「諦めるしかないのかしら……」
あの時痩せ我慢などしないで、素直に許可を出してもらえばよかったのだろうか。
あれ以来、エスティリオには一度も会っていない。
本来なら魔塔主は、そういう立場の人だ。
ただの使用人のエルに、何度も話しをする機会があった方が異常だったのだから。
今日という日が楽しくて嬉しかった分だけ、エスティリオに会えない寂しさが際立ってしまう。
沢山お礼を言いたいのに。沢山話したいのに。
「エスティリオ……会いたい……」
一度口に出してしまうと、押さえ込んでいた気持ちが次々と溢れ出てくる。
「会って……言ってしまいたい。私はラシェルだって。あなたと一年を共に過したラシェル・デルヴァンクールだって……。そんなことすら許されないなんて……」
リオに抱きついてその毛皮に顔を埋めると、ふわふわとした感触が頬を撫でる。
学生の頃に触れたエスティリオの髪の毛も、こんな風に柔らかい猫っ毛だった。
エルを好きだなんて言わないで。
嫌いになってもいいら、せめてエルがラシェルだと知って。
「お父様にかけられたこんな呪い、無くなってしまえばいいのに」
ラシェルに抱きつかれ肩に乗せられていたリオの頭が、ふっと持ち上げられた。
「リオ……?」
じっとこちらを見てきたかと思えば、ペロりと頬を流れる涙を舐めとってくる。
「ふふっ……ありがとう」
頭のいい犬だからリオなりに、ラシェルが悲しみの中にいることは理解しているのだろう。慰めるようにペロペロと頬を舐めてくる。
「こんな所を二人に見られたら、また呆れられちゃうわね」
二人というのはもちろん、ナタリーとアルベラ。命令でラシェルの下で働いていたとはいえ、二人にも明日、改めて御礼を言わないと。
「だけどもう少しだけ、こうしていさせて」
もう一度リオを抱き締めると、ラシェルはその温もりを存分に味わった。