こちら元町診療所
私の朝ごはんなんて一品だよ?
卵かけご飯とかトーストだけとかさ?


まぁ‥‥お医者さんだしね‥‥。
一般の事務職からしたら収入なんて比べ物にならないだろうよ‥‥。


『俺は珈琲しか用意してないよ?
 あとは家政婦さんが用意してくれてた
 のを適当に温めて並べただけ。』


「か、家政婦ですか?」


思わず食べていたものを喉に詰まらせそうになり、慌ててミネラルウォーターを
一気に飲んだ。


元々育ちがいいのだろうか?
食べる所作や、姿勢も美しいし、
異性なのに品が感じられるしね‥‥


『落ち着いてゆっくり食べていいよ?
 後で家まで送るから。』


「えっ!?そんな‥ッいいですよ!
 1人で帰れますし、なんなら課長を
 呼びますから。」

『‥‥‥課長?なんで?』


えっ?


優しい表情から一変して、みるみる
眉間に皺が寄せられて行く様を首を
傾げて眺める


『靖子』

「なんですか?」


靖子と呼ばないでといちいち言うのも
既に面倒だと思えて返事をすると、
私の手をいきなり先生の手が包み込んだ


綺麗な手‥‥‥。指も長くて爪まで綺麗に整えられ、肌だって私よりスベスベしている。ケアは何かしてるのかな?


ッ!!じゃなくて!!!!


「な、何してるんですか!!?」


『課長は君を休日に迎えに来るほど
 君との関係が深いってことなのか?』


関係?

そりゃ職場では上司と部下という立場
だけど、お姉ちゃんと付き合ってた時
からの付き合いだし、結婚してからは
家族みたいなものだから深いといったら
深い気がする


手を離そうとしても、更に強く握られ、
瞳を逸らそうとしたら、もう片方の手で
顎を捉えられてしまった


「‥‥‥大事な人ですよ。
 居なくなったら困るくらいには。」


私の発した言葉に、握る手に少しだけ
力が込められると、真っ直ぐ見ていた
視線が下に晒された後そっと先生の手が
離された。


『‥‥冷めないうちに食べよう。』

「はぁ?」


まるで叱られた子供のように落ち込む
表情を不思議に思いつつも、課長に
メールを送った後食事を全て美味しく
頂いた。


ピンポーン


洗い物を率先してしていると、鳴ったインターホンに、海外の新聞を読んでいた先生が静かに立ち上がった
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