こちら元町診療所
抵抗しないといけないのに、
一瞬で体の力が抜けていくような
気持ちよさに惑わされてしまいそうだ‥


な、な、何でキスなんか‥‥‥それより
そんなことをする雰囲気だった?


『‥‥‥‥フッ‥‥そんな顔したら
 帰したくなくなる。』


えっ?


長い指が目にかかった前髪を払いのけ、
おでこに軽く唇を触れさせてきた


「ッ‥‥な、何言って‥‥ッ!
 帰ります!!お、お邪魔しました!」


ドンっと勢いよく先生の体を押すと、
口元を手で押さえながらも、家から
飛び出すかのように逃げた


何ってヤツなんだ‥‥‥!!
いきなりキスをするなんて!!


先程のことを思い出すと、腹が立つ反面
初めての感覚に体が震えた事を思い出す


「‥ッ‥‥あんなのズルい‥ッ!!」


引っ叩いてやりたかったのに、体を
預けてしまった自分にも腹が立ち、
両手で頭を抱えるしかなかった。


危険人物‥‥あの見た目になんててもう騙されるものか!!


チーン


『やっちゃん!!!』


ドキッ!!


エレベーターが開いた途端に目の前で
涙ぐむ課長に今度は青ざめる。

課長のことなんてすっかり忘れてた。

お姉ちゃんよりも心配症で、説明するのも正直面倒だけど、納得するまで
しつこいから仕方ない


『やっちゃんッ‥まさか‥先生と?』

「ッ!!何おかしなこと言ってるの!
 先生となんて何もないに決まってる
 でしょ!?」

『ウッ‥だって‥あ、朝帰りなんて
 翠に知られたら俺ボコボコにされ
 ちゃうよ!!?』


両肩を鷲掴みされブンブンと前後に
揺らされながらも、お姉ちゃんなら
やりかねないとも納得する


「酔って帰れなかったところを
 泊めてくれただけ。
 なにもないからもう帰ろう?
 こんな高級マンションにいたら確実に
 不審者で通報されるよ?」


課長の手を取ると、エントランスから
外に向かって歩き、春の穏やかな暖かい
日の日差しに目を細めた


改めて見てもすごいマンション‥‥。
診療所に勤めるような人が住む場所とは思えない豪華さに疑問が生じる。


夢見たいな時間だったと思えばいい。

寝具は寝心地が良く、朝食だって豪華。
それに‥‥不本意とは言え、あんな
イケメンとキスまでしてしまったのだ。
ラッキーくらいに思っておこう。
< 22 / 120 >

この作品をシェア

pagetop