こちら元町診療所
少しずつでいい‥‥

先生の事を信用してみたい‥‥‥。


以前と変わらない接し方に、ありがたい
と思い医事課に戻った。



『靖子さんおはようございます。』


「安田さんおはようございます。
 今日は早いですね。月曜日なので
 バタバタですがよろしくお願い
 します。暑いので待合解放して
 あるのでシャッター開いたら今日も
 浜ちゃんと3人で乗り切りましょ。」


私よりも最早ベテランの安田さんの
存在はとても心強く、浜ちゃんは妹。
安田さんはお姉さんのような方だ。


『先生のファンは多くて本当に
 驚きですね。外見は申し分ないです
 が、やっぱり一緒に働いて、先生の
 丁寧な診察に安心してる患者さんが
 多いと思います。』



私もそれは本当にそうだと思う‥‥。


診療所に来てくださる先生はいい方
ばかりだったけど、叶先生は歴代の
中でも患者さんの細かいところまで
丁寧に見ている気がする。


話し方、表情、簡潔に分かりやすい
説明、ホームケアのフォローなども
丁寧だし、私達医事課スタッフにも
分かりやすいカルテの記入をきちんと
してくださっているのだ。


レセプトの点検も、殆ど病名が
しっかり付いているし、朝早く来て
仕事をしているのにも尊敬する。


そんな人が、私へ想いを伝えてくれた事はとても嬉しいし喜ぶべき事だと思う。


殆ど答えは出てるから後は私次第
と言う事だ。


怒涛の忙しい午前診療がスタートし、
受付しては会計、合間に紹介状や
診断書の確認などに追われて、
あっという間に診療受付時間が
終わろうとしていた。


『すみません、予約してないんですが
 見てもらえますか?』


ドクン


聞いたことのある声に会計をしていた
手が止まり、どうか私の思い過ごしで
ありますようにと受付の方に視線を
ゆっくりと向けた。


「‥‥ッ!」


思わず片手で口元を押さえると、
すぐに姿勢を丸めて俯く。


どうして‥‥‥‥

5年間1度も会うことがなかった彼が
どうしてこの診療所にやって来たの?


だって‥‥あの時地方に転勤が決まって、新しい家族と一緒に行ったと
聞いていたから、もう会うこともないと
思っていた。


それなのに、どう見てもやっぱり彼で
しかないのだ。
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