こちら元町診療所
診察されてる間、涙を見られたくなくて
自分の腕で目元を覆っていた。


何が悲しくてとか、何が嫌とかじゃなく、意味もなく溢れる涙だったから‥


『血圧がかなり低いな‥‥‥‥
 1日辛くなかったのか?』


元々低血圧だったとは思うけど、
朝も起きれるし自分的にはそれが原因で
ツラいと思ったことはない


「先生‥ほんとに少し休めば
 平気ですしもう帰るだけなので、
 歓迎会は行けませんが皆さんが
 待ってますので向かってください。」


『‥‥分かったよ。』


はぁ‥‥良かった‥‥。
寝不足に胃痛が酷い状態で、これ以上
先生といると余計に悪化してしまい
そうだったから助かる。


少し休んでから更衣室に行けば、
みんな帰ってると思うから大丈夫な
はずだし。


『靖子を家に送ってから行くよ。
 一人で帰すなんて心配だからね。』


えっ!?


「‥先生話聞いてました?」

『ん?聞いてたよ?ほら抱っこするから
 俺につかまって?』

「えっ!!?ちょっ‥‥待って‥
 無理!!ヤダ!!やめてーー!」






ピピピピ  ピピピピ  ピピピピ


アラームの音と共に勢いよく起き上がり目を覚ますと、うなされていたのか、
額にうっすら汗が滲んでいた


‥‥‥どんな‥‥夢だっけ‥‥‥
嫌な夢のようなそうじゃないような
何とも言えない夢だった気がする‥


疲れが溜まってるのかもしれないな‥
とても長い夢を見ていたような
気分に大きな欠伸が出でしまう。



背中と腰辺りにリアルに残る手の感覚
にブルッと体が震えつつも、背伸びを
してそのまま起きることにした。


「おはようございます。部長、今日も
 早いですね。」


7年勤めた診療所の医事課のドアを
くぐると、1番奥の席に眩く光る
頭を持つ仏のような部長に挨拶をした


『中原くん、おはよう。
 今朝はいい天気だねぇ‥‥。』


お気に入りの珈琲豆を朝から挽き、
美味しそうに飲む姿も見慣れたものだ


「明日から新年度ですからね。
 1年があっという間に終わって
 私も7年目になってしまいました。」


短大を卒業して入社した時なんて、
1番若かった私も気付けば今年で28歳


毎日程よく忙しいこの診療所で、
のびのびと医療事務を続けている


まわりは結婚ラッシュに差し掛かり、
早い子は2人目を産んだなんて報告も
チラチラ舞い込み始めていた。
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