それでも、あなたを愛してる。【終】
『─……出来ない、とは言わないよ』
両親以外の声に、顔を上げる。
すると、いつ現れたのか、小さい子が立っていた。
『君と調律者を入れ替えることは、現実的には不可能じゃないよ。調律者は僕の愛し子が救った子で、僕の管理下の子だから。でもね、それを選択するには、君は何も知らないの』
どこか切なげに微笑む子ども。
幼い姿とは不釣り合いの表情に、依月は何も言えなくて。
『君の想いは、とっても素敵。でも、彼らにとって、君はひとりしかいない。代わりを務められるとか、そんなのはない。何も言わずに去るのは、置いていかれる側はとても寂しいことだよ』
小さい手が、頬に触れる。
『もう一度会いたくて、触れたくて、抱きしめたくて、言葉を交わしたくて、彼らは運命に抗ってるんだよ。─幸せにしよう、なんて、人はよく言うけれど。そんなのは難しいことだ。幸せにする、してもらうじゃなくて、一緒になるって考えるの』
少年の言葉は、依月の甘えを否定した。
悲しい思いをしたくないから、
傷つきたくないから、閉じこもりたい、なんて。
『ねぇ、依月。君がいなければ、生きていけない人達もいるんだ。僕はその人達を知ってる。もしもの時は、僕を恨んでいいよ。だから、少しだけでいいんだ。少しだけでいいから、刹那と外で生きておいでよ』
『でも、それは』
『契の元に戻らなくてもいいよ。契とは関係ない世界で、刹那を孤独にしないでくれたら。……でもね、契が産まれた時から見てる僕はひとつだけ、君に言っておきたい』
少年はそう言って、依月に耳打ちした。
その言葉は、今の契からは想像できないくらい、優しくて、哀しくて。
『これまで、暗闇を歩くみたいで不安だったね。怖かったね。自分のことを愛せなくて苦しくて、愛してくれる契に申し訳ないって、いつかは譲り渡す場所だからって思って、心に有刺鉄線をはることで頑張ってきたんだもんね。良い子良い子』
しとしとと、涙が零れることを止められない。