それでも、あなたを愛してる。【終】
『契はね、私が「寒い」って言ったら、「寒いね」って言って、抱き締めてくれる人なの』
『うん』
『優しい、優しい、人なの……』
『うん』
『私はっ、勝手だから……戻った時、契の横に他の誰かがいることに耐えられなくて、逃げてる。大人になったあの人に、これ以上釣り合わなくなっている自分を認めたくなくて、逃げてるの』
『うん』
『私は……』
幸せになりたかった。でも、そう思うことすら烏滸がましく感じていたし、そもそも、『幸せ』が何なのかも分からなくて、苦しかった。
契が笑いかけてくれても、上手く笑えなくて。
それなのに、契はいつも笑いかけて、話しかけて、触れてくれて、愛してくれて、大切にしてくれた。
『……依月はさ、契に会いたい?』
『……』
『建前とか、そんなものは気にしないで。ここは人間の世界じゃないんだから。ね、依月』
少年はそう言いながら、微笑みかけてくる。
全てを見透かすような瞳は、依月の心を揺さぶって、そんな依月の肩を後ろから、両親が支えてくれる。
『依月、あの子だけが幸せになってもだめなの。貴女も私達の可愛い、大切な娘。幸せに生きて欲しいわ』
『お母さんの言う通りだよ。どうしようもなくなった時は、彼を恨んで、ここに戻ってきてもいいから。─父親らしいこと、何ひとつしてあげられなかった。死ぬ間際に、封印をかけることが限界で、そんな僕に言われたくないかもしれないけど、君が生きていてくれて、僕はとても嬉しい』
『そうね。生きていてくれて嬉しいわ』
『頑張ってくれて、ありがとう。依月』
優しい、優しい両親。
依月がずっとずっと欲しかった存在。
『依月』
私はずっと、1人になりたくなかった。
ひとりが怖くて、寒くて、寂しくて。
夜に起きて泣いては、契が抱きしめてくれた幼い頃。契は繰り返し、『ずっとそばにいるよ』と言ってくれていた。
好き、大好き。彼に会いたい。彼を愛してる。
─表現は苦手だけど、気持ちが嘘だった時なんて一度もないよ。ずっとずっと、愛してる。