それでも、あなたを愛してる。【終】
第二章☪ ‎運命

君がいない世界でも



「─いらっしゃい」

そこは、契達が住む街から、車で2時間以上離れた場所。

低い建物が多く、空が高い場所。
空気は清らかで、商店街は賑やかで、都会では失われた景色はとても新鮮だった。

車から下りると、和服姿のひとりの女性がひとり、出迎えてくれた。
彼女は穏やかに微笑んでいて、昔と変わらない姿に懐かしさを覚える。

「お久しぶりです」

契がそう言うと、彼女─椿家の当主夫人・椿百合(ツバキ ユリ)さんは、小さく頷く。

「遠いところまで、よく来たわね。碧(アオ)さんも運転、お疲れ様でした」

百合さんからの声掛けに、静かに頭を下げる碧。
橘家の使用人一家の後継者で、千景の秘書である彼は幼い頃からずっと、千景のそばにいる。

正確に言えば、千景とその双子の弟である千陽付きとして育ってきた彼は今回、この町に来るにあたり、車の運転をしてくれた男だった。
三人の中で運転できるのが契しかおらず、最近、生活が荒れていたこともあって、親が心配したらしい。

白羽の矢が立ってしまった彼に、巻き込んでしまったと、出発前に謝ったが、彼は優しく微笑んで首を横に振った。

『良いんだよ。僕に任せて』

橘家の優秀な使用人夫妻から生まれた彼は、幼い頃、一緒にいたメンツの中で唯一の、契より年上の存在。

たった数歳の差が大きくて、いつも、彼は俺達の相談に乗ってくれる兄的存在だった。

「こちらへどうぞ」

既に知命は超えているはずだが、変わらず麗しく、妖しい空気を纏っている百合さんのあとを全員でついて行く。

「とりあえず、家で主人が待っているから。その後、この町を案内するわ。きっと、知りたいことも沢山あるのでしょうし─……ああ、そうだわ。紫苑さんからは許可を得ている、柊家の昔話とか、そのことも話さなくちゃならないわね」

百合さんは、全てを知っているのだろう。
幼い頃から四季の家のなかで生きて、見限った側の人間なのだから、契達が知らないことをきっと。


< 13 / 186 >

この作品をシェア

pagetop