それでも、あなたを愛してる。【終】


「─契さま!」

暫くすると、他の人間が恭しく道を開けている真ん中をあろうことか駆け抜けて、契に擦り寄ってきた女がいた。

契の言う通りに事が運んでいく。
翠の方を見ると、微笑まれた。─作戦、か。

『彩蝶、覚えておきなさい』

育ての両親は、多くのことを教えてくれた。
多くのことを教えてくれて、彩蝶の未来を憂いてくれていた。

(貴方のいない世界なんて、二度と戻ってきたくなかったのに……ね、悠生)

耳を澄ますと、朱雀宮契がどちらをとるのか噂している声が聞こえる。

朱雀宮における唯一の後継者である契は、氷見の娘を娶るのか、それとも、彩蝶に婿入りするのか。

そうやって、得ある方につこうとしている。
戦況を静かに読んでいる、が。

(─どちらも不正解だ、馬鹿め)

女の身内─つまり、氷見の馬鹿どもが挨拶という名の媚びを売りに、契の前へ向かって。

高らかに何かを自慢げに話す姿は、いっそ滑稽だ。あの真っ黒な腹を持つ契は、何を考えているのか。

怖くて聞きたくもないが、依月さんが居なくなったあの夜、死んだ当主の喪も明けぬうちに、新たな当主となった先代の弟は、言葉の端々で依月を貶める言葉を吐いていた。

(あーあ、死んだ)

これに関しては、聞かずともわかる。
まぁ、うん。四ノ宮当主の責任じゃないし、やり過ぎる前に止めればいいや、と、彩蝶は契たちの絡みを横目に、高みの見物といくことにした。


多分、この場において、彩蝶に求められるのは、この強い神力のみだから─……。

「……?」

─その瞬間、ゾワリ、と、彩蝶の背を伝うなにか。

会場を見渡すけど、どこにもその違和感はない。
千景たちは彩蝶の様子に目を丸くしていて、契を見ると、契は楽しそうに口角を上げていた。

(こんな感覚、神であるユエたちと対峙した時でさえ─……)

いくら、彼らが半端者だったとしても。
─あまりにも、これは。


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