それでも、あなたを愛してる。【終】


「─あれ?」

玄関にたどり着いたのと同時、勝手に開いた扉から顔を出したのは、ひとりの女性。

「ごめんなさい、おばあちゃん。……お客様?」

「大丈夫よ、宵華(ショウカ)。どこかへ行くの?」

「うん!友達と遊びに!」

「…そう。車には気をつけるのよ」

「はーい!」

百合さんの言葉に元気よく返事をした彼女は、足早に庭を駆け抜けていく。
明るくて、真っ直ぐな姿はまるで─……。

「そっくりでしょう?」

まるで、契の心の中を覗いたかのように。
百合さんは家にあがりながら、聞いてきた。

「……ええ、とても」

「ふふ、あの子を知る人はみんな言うの。どちらかと言えば、あの子は父親に似たと思うのだけど。空気感、というのかしらね」

切なさの滲む言葉。
“あの子”は、17年前に亡くなった百合さんの。

「夜顔(ヨルガオ)は身体が弱かったから、宵華みたいに走り回ったりはしなかったけど……明るい子だった。周囲を照らしていたわ。諦めるとか、そういうことを全部、吹き飛ばすように」

一説によると、彼女が見限ったから、百合さんたちは四季の家から離れたと言われている。

優秀で、美人で、明るくて、誰からも愛された彼女は短命だった。しかし、その短命の運命に悲しむこともなく、彼女は最愛の夫に子を遺す未来を誓い、眠るように世を去った。

あまりにも思いきりのよいその姿に、夫であった人も、百合さん達も、悲しむだけの涙は流すことは出来なかった。

そうか。その時の子どもか。
生まれたと同時に、母親を喪った……眠りについた母親の上で、小さかったあの。

「……大きく、なりましたね」

「ええ。とても大切に育ててきたもの。あ、でも、私からしたら、あなたたちも同じようなものだわ?」

17年前といえば、契はまだ3歳だった。
でも、何となく覚えている。
悲しむ大人達の真ん中で、横たわった夜顔さん。

契が生まれたのとほぼ同時期に四季の家を見限ったが、その後も姿を見せては、可愛がってもらっていた。

記憶よりももっと、それは写真やビデオが証明している。


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