それでも、あなたを愛してる。【終】



「貴方達は欲に溺れ、大切なものを見失っておいでだ。知らぬ存ぜぬで、終わる話をしているのではありません。身の丈に合わぬ想いで、我らが父と母を殺し、冬の宗家たる柊家までをも貶めた貴方がたに、大層、皆さまは御怒りだ」

「ハッ、一体、何の戯れ言を。氷室家が不慮の事故で滅亡したのは、ここにいる誰もが知ること。我々が手を下した証拠などありますまい。そもそも、先程の朱雀宮様の行動にも問題があるかと」

─頭を踏みつけたことを言ってるのか。
いや、でも、彩蝶が現れた時でさえ、彼らはニヤつくばかりで、彩蝶に頭を下げ無かった。

別に自分を特別だと思っているわけでも、敬ってほしい訳でもないが、この、四季の家の中で生きていくならば、最低限のマナーである。

それを守らなかったから、それを罰せられた。
─そんなことすら、わからぬのか。

「─……よくもまぁ、ぺらぺらと」

ため息混じりに呟きながら、依月さんたちの後ろから現れたのは、長い髪をひとつに三つ編みに結い、フォーマルスーツに身を包んだ、ユエ。

「……」

「初めまして。調律者、そして、冬の姫巫女よ」

ユエは男性と依月さんの間に降りてくると、静かに、氷見当主を見据えた。

「な、なんだ!お前は!!」

「うん?俺か?俺は……そうだな。お前達が、創世神と呼ぶ者だ」

─創世神。それは、四季の家においての主神。
その文字通り、この世界の始まりを創り出したとされている神であり、四季の家の始祖。
“刻神様”とも呼ばれている。

「は、はは、ははは!何を世迷言を!」

「神だと?その身なりでか!」

「神様なら、この嘘つきを罰せよ!」

─まぁ、予想通りだ。
それにしても、宗家が黙っているのに、氷見を皮切りに盛り上がり始める。

(私が何か手を下さずとも、四季の家はその内、必然的に滅びるかもしれないな)

権力に、金銭に、能力に固執してきた人間共の塊は、今、悪意となって、善を飲み干そうとする。

彩蝶は何も言わなかった。
何度も繰り返すが、彩蝶は別に四ノ宮家の当主になんてなりたくなかった。

それでも、今、少しはなって良かったと思えているのは全て、あの可愛い妹を守ることに繋がっている実感があるからだ。

だから、目の前の奴らがユエの逆鱗に触れようと、本当にどうでも良いのだ。

(それにしても、“嘘つき”ねぇ……)

氷見の当主兄弟は高笑いしながら、依月さん達を指差した。


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