それでも、あなたを愛してる。【終】



「そうか」

ユエは勿論、興味が無い。
元々、彼はそういう奴である。

「……別にお前たちのようなものに理解されたくて、ここに現れたわけじゃない。それと、贄も要らぬ。元々拒絶していたにもかかわらず、自分達の脅威になるからと、私に捧げるフリをして……まぁ、そんな彼らの犠牲が溶けた泉は神力に満ち溢れ、私はもう一度、この人生を始められたわけだが」

ユエの言葉は、奴らには届かない。
届く必要が無いと、ユエが考えるからだ。

ユエはそのまま、依月さんの元へ寄ると。
少し声量を上げて、彼らに届くように微笑んだ。

「─確かに、神力が強いな。しかし、この子の母親には負けるだろう。それに、冬の封印の気配も感じる。この感覚からして、お前たちの元にいた時の彼女は力なき少女だったはずだが」

普段の姿を知ってる身からすると、ユエが完全なる別人だ。でも、恐らく、この姿が本来の創世神。─世界を憎悪し、滅ぼしかけた神の姿。

「ひっ」

ユエは変わらず、己の力を隠しているのに。
その気迫だけで足を震わせる、喚いていた奴ら。

「問おう。何故、そなたらは我を信じられぬ身で、彼女を我の生贄だと申した?」

(『どうして、ユエへの生贄だとわかっていながら、彼女を虐げていた?』か。……まぁ、ユエの言うことは間違っていない。余計な瑕疵がつかぬよう、古くから、生贄となる存在は隔離して育てられていたという伝承が残っている。最も、四ノ宮の初代がそれを咎め、生贄は不要としたことで、その文化は廃れたが)

「答えよ」

(……否、答えられまい。生贄に捧げられなくなった“邪魔者”は牢屋に監禁し、時が来たら、裏で神に捧げる名目の元、殺害していたなど……誰が言える。その手法ならば、初代の呪いもないと考えた辺りが、本当に小賢しく、嫌になる)

「答えられぬのか?」

どんどん増していく気迫に、心からこちら側に拝礼している人々の顔色も悪くなっていた。
氷見を始めとする奴らがどうなろうと知ったことでは無いが、彼らは違う。

彩蝶は無言で宙に術を描き、彼らを結界で包んだ。呼吸がしやすくなったのか、肩の力が抜けた彼らを見て一安心。気づいたひとりがこちらを見たので、小さく手を振っておく。

「彼女は、今代の生贄ではない」

ハッキリと、ユエが否定する。

「彼女は、両親が類稀なる力ゆえに生まれてきた愛による結晶に過ぎず、生贄などではない。また、四ノ宮家初代は我のこの意志を汲み、生贄制度は廃止したはず。それは、各家の文書にも記されていると聞いていたが?」

チラッ、と、ユエがこちらを見てきたので、彩蝶は微笑みながら、頷いた。


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