それでも、あなたを愛してる。【終】
「勿論。貴方様の言う通り。私が個人で確認したところ、各家には記した記録が残っていた。なぁ、橘、朱雀宮、桔梗」
彩蝶の言葉に、当主の父親代理で来ている千景、当主の契、凛は頷き、胸に手を当て、頭を下げる。
「勿論でございます。それゆえ、当家をはじめとする四家で産まれた生まれつき神力が強い子どもは、我々の指導の元、各家で大切に育んでおります」
「後々の諍いの元になると言われておりましたが、神力が強いものは、それだけ悟りも早く、聡明なものが多い。それ故、早くに家を出たり、後継者の間で話をつけて、諍いにならぬよう、配慮されております」
千景と凛の“台本通り”の言葉に、彩蝶は頷く。
「それは重畳。そなたらの尽力により、我々は国のひとつの柱として成り立てておる。感謝している」
「「有難いお言葉です」」
背筋が凍りそうだが、これも四ノ宮家当主の責任なので、彩蝶は「して……」と、契に目を移す。
「四家、と、申したな。朱雀宮、それはどういう意味だ?柊家がいつ頃滅んだのか、詳細を我は知らなんだ。教えておくれ」
「─はい。まず、最初に申し上げておきますが、我々四季の家宗家、四家がひとつ、柊家は滅んでおりません」
契のはっきりとした言葉に、場がざわめく。
それはそうだ。
これは依月さんを無くし、打つ手がなくなった契が、依月さんの全てを理解するために始めたひとつであり、居なくなった幼なじみを見つけるため、そして、依月さんを傷付けてきた全てを消すために、彼がずっと静かに動いていた案件。
彩蝶たち以外、誰も知らない……神様すらも巻き込んだ、ただの復讐劇。
(愛だけで、ここまでやるとは……)
正直、初めてこのことを知った時、彩蝶は大笑いしてしまった。
あまりにも、新しい友人が最高だったからだ。
馬鹿な大人達の、全ての計画が水の泡になった時の顔は想像するだけで、口角が上がる。
『どうして、今更、それを私に?』
『お前に恩返し出来そうだから。まぁ、俺のお膳立てのあとはお前次第だが……その立場についてくれたこと、心より感謝してるから。それの御礼』
『なあに、それ。貴方が来なくても、私はここに来て、当主になる運命だったわ?』
『でも、それは必然じゃなかった。俺達が行ったことで、神々からの祝福という奇跡を、お前は偶然として片付けられなくなったんだ』
─正直、気づいていたことが意外だった。
幼い頃から、そういう変な現象が起こる度、彩蝶は『刻神様に愛されているのね』と、地域の方々には言われていた。
笑って誤魔化していたの。
だって、余計なことを言ったら、面倒くさいものを引き寄せるから。
でも、そんな彩蝶を、彼らの訪れが肯定した。
彩蝶は“そういう存在”なのだと─……。