それでも、あなたを愛してる。【終】



「結論から言おう。その上で聞きたいことがある」

「はい」

冬仁郎さんは軽く咳払いをすると、目元を和らげ。

「結論から言うと、彼女は無事だ。しかし、今は行方が分からない」

「……」

黙って聞かなければ。暴れるのは、もうやった。
それでも、痛む心臓の音が耳に響く。

「─同時に、氷見家の当主とその弟が先日、遺体となって発見されている。死後1ヶ月と少し……大体、依月さんが居なくなった時期に、何者かによって心臓を止められていると報告があった」

四季の家のなかで、当主とそれに連なるものが死んだ。同じ宗家ならまだしも氷見は分家だから、当主にすらなっていない契や千景の耳に届かないのは当たり前。しかし、凛は─……。

契が凛の方に視線を投げると、彼は小さく頷く。

「全身が凍っていたよ。心臓を中心に、息絶えていた。氷見は内部で処理したかっただろうけど」

「凛が指揮を?」

「結果的に、最後はね。元々、菊月の人間を氷見へ内部捜査のために送り込んでいたんだ。菊月が連絡を寄越してきて、僕が指揮を」

「菊月を?なんでまた……」

菊月家─それは、秋の宗家・桔梗家の分家のひとつだ。秋の分家が、冬の分家へ?

「……依月は、何も教えてくれなかったでしょ」

凛の静かな声が、あの幼なじみであり、最愛の恋人の欠点を呟く。

「……」

「だから、かなり前から送り込んでいたんだ。本物が現れる前から、氷見の内部を報告させていた。本物は本気で依月と成り代わる気らしくて、手紙で報告を受けていたんだけど……依月のことを慕う使用人が多くいた事実を、彼女は受け入れたくなかったんだろうね。家への出入りを厳しく規制しだして、依月の後を追えないようにした」

「それは、依月が家を出てから?」

「そうだね。元々、依月は離れに追いやられて育てられた子だった。食事なんてまともなものじゃなかったし、暴力こそは、契と付き合い出してからは無かっただろうけど……」

「……」

ドロリ、とした感情が、蠢く。
腹が立つとか、そういう次元じゃない。
─ああ、そういえば、婚約が成立した幼き日。
基本的に怒らない母が、氷見に怒りを見せていた。

『娘はあなたのものですから!売るなりなんなり、お好きなように!』

……あの気持ちの悪い顔を、やはり一度だけでも殴っておけば良かった。
握りしめる拳を、永遠に下ろす場所を失った。


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