それでも、あなたを愛してる。【終】
本物とやらと入れ替えるつもりだったのなら、そりゃ、依月のことなんてどうでも良いだろう。
─それが本当に、入れ替えられるならば。
「菊月は上手く抜け出して後を追ったけど、依月は何処にも見当たらなかった。他の使用人の話によると、本物は依月の持ち物を全て奪い、依月の母親の形見を目の前で処分し、依月を殴ったと聞いた」
「当主が亡くなった今、氷見は」
「表向きでは四ノ宮に判断を仰ごうとしているようだが、氷見を統率すべき、冬の宗家の柊家は既に滅び、四ノ宮も新しき後継者すら見つからず、未だ不安定。そんな中、分家のひとつの争いなど……」
耳を通り抜けていく、凛と千景の会話。
煮えわたるような怒りは抑えられず、心臓の音は騒がしく、次第に気持ち悪くなっていく。
息が詰まっていく。
ああ、そうだ。こんな時、いつも依月が─……。
「─契くん」
耳を、塞がれる。そう、依月もこんな風に。
「大丈夫。大丈夫だから」
全ての音を遮断するように、包み込まれる。
百合さんは優しく微笑みながら、契の汗を拭ってくれて、契は少しだけ、呼吸が楽になった。
「……百合さん」
「なあに」
「依月は……」
「……」
「依月はどこに行ったんですか……どうして、帰って来れないんです……あいつがいないと、俺は……」
ダメなんだ。もう、依月がいないと。
依月がいる未来以外、望んでいなかったから。
『契』
表情を変えることが苦手だと言いながら、一緒にいると、花が綻ぶように笑う依月。
『契と、ずっとこうやって過ごしていきたい』
隣で笑いながら、未来を語る依月はどこか諦めているような、今にも消えてしまいそうな雰囲気が怖くて、仕方がなかった。
連絡がつかなかった数ヶ月の間。
いくら言っても、何しても、氷見は応じなかった。ここで、宗家の権力を使えば、話は早かったかもしれないが、私情でそれは禁じられているから、契にはどうすることもできなかった。
身勝手で迷惑がかかるのは、責任を背負うことになるのは契だけじゃなかったからだ。
同時に、それをしても、依月は悲しむだろうなと思ったから。
でもやっぱり、こんなことになるのなら。
こんなことになるなら、俺は─……。