それでも、あなたを愛してる。【終】
☪ ‎


─ありゃ、かなり重症だ。

窓の向こうで席に座り、呑気にアイスティーを飲んでいる依月を見ながら、電話した先。

『はい』

─もちろん、朱雀宮契である。

「もしもし。先日ぶりです。如月華恋です」

母親とは籍が入ってなかったクズ。
内縁の妻のような形だったため、免れた【氷見姓】の所持。複雑だが、不幸中の幸い。
だから、母親の苗字で名乗ると。

『…ああ』

間を置いて、反応した彼。
そういや、ちゃんと名乗ってなかった気がする。

(確か、“氷見の当主が第1子〜”的な名乗りしたから、名前は省いたな。面倒くさくて)

『─どうしました?』

とても話が早くて助かる。
多分、彼のことだから今日、依月と一緒に行動しているのが、華恋だと把握してる。

それくらい、あの子は愛されているのに。

「単刀直入にお聞きします。─契さん、あの子をまだ抱けます?」

『……』

「ひとり暮らしの話や、仕事の話が出てます。全力で止めてはいますが、多分、感情の整理がまだ完全には行えていないのかと。氷見家にいる間、暇だから調べていたんですけど、あの禁忌スレスレの契約、解けたあと10年間位は、孤独感、寂寥感に苛まれると」

多分、当然に知っている話だろう。
でも、依月の現状を話すためには少し他の話で緩和しないとやってられず。

『……そういう次元の話をするレベルでは無いので、迎えに行きます』

「助かります。貴方を愛していることだけは、嘘ではありません。それは証明できます」

“そういう次元”というのは、夜事情。
それが無くても添い遂げる覚悟を持つ彼は、本気で依月に溺れている。

それに気付かないなんて、静かに水底に沈んでいくことと同じでしかない。

華恋は手早く住所を送り、店に戻った。


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