それでも、あなたを愛してる。【終】
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「─ごめん、お待たせ」

華恋が帰ってきたのは、約10分後。

「大丈夫。意外と早かったね?」

「絢人との電話だからね〜それより、話戻すけどさ、本当にひとり暮らしはオススメしないし、働くなんて論外だよ」

断固反対されて、打つ手なし。
就職しようにも、そのやり方も知らないし─……生きる上で必要なこと、自分は本当に何も知らなくて嫌になる。

(これまでは全部、契に任せていたからなぁ)

両親がない依月にとって、契は恋人であり、婚約者であり、家族だった。
だから、両親がするようなことも全てしてくれて、いっぱい愛してくれた。

「でもさ……」

(それが、下の子を、妹を可愛がるようなものだと気づいたのはいつだったか……あの恋人関係は対等だったのか、ずっと不安)

口にしかけて、呑み込んだ。
言ってもいいのか分からない。でも、言ってしまえば、自分が傷ついてしまうことは分かってる。

「─いや、妹のように可愛がる子を、ベッドに連れ込むのは犯罪以外、何ものでもないでしょ」

「っ」

思わず、空気の吸い方間違え、咳き込んでしまう。

「婚約者で、恋人同士で、そのうえでベッドで愛されていながら、妹扱い?そんな異常な人じゃないでしょ、契さん」

「……私、何も言ってなくない?」

「顔に出てる。ひとりでぐるぐる考えてさ、誰かに何か言われたわけ?」

「何も……今はもう、誰も何も言わないよ。私、氷室の娘だったって周知されたし」

「だろうね。依月が行方不明の間、あんたを傷付けたであろう奴らは老若男女問わず、四季の家から永久追放されているもの」

華恋は軽やかにそう言いながら、飲み物を口にした。

「……え?」

「知らないの?大切なあなたを傷付けられて、あの方が許すわけないでしょ」

当たり前のように語り、ついていけない依月を置いてきぼりにして、ケーキを食べる華恋。

「いやいやいや。だって、これまでそんな……」

「その姿を、あなたに見せないようにしていただけでしょう?契さん、あなた以外はどうでも良いと考える人のはずだもの」

「何それ。華恋の考え過ぎよ。優しい人よ。優しい人だから、私のことも─……」

そう思わないと、やっていけない。
期待してしまえば、苦しくなると思う。
認めてしまえば、見つめてしまえば。

自分がどれだけ弱い存在か、
誰かに言われなくても、もう分かってる。


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