それでも、あなたを愛してる。【終】
「…………面倒くさい子ねぇ」
暫く抱きしめて、依月の弱音を聞き続けてくれた華恋が小さく笑いながら、そう言った。
「どうしてそんなに難しく考えているの?結構、みんなあっけらかんと生きて、恋してるわよ」
「で、でも、私」
「あのねぇ。仮にも、私の代わり?に、氷見で教育を受けていたんでしょう?だったら、礼儀作法なんてものは完璧に決まってるじゃない。美しいって話題になるくらい、人の目を集める自分の何が気に入らないのよ」
「それは、契がくれたドレスが……」
「……まぁ、ここは何言っても響かないと思ってるけど」
これ見よがしにため息をつかれる。
華恋は両の手で依月の頬を包み込むと、
「─ねぇ、依月。愛ってなんだと思う?」
優しい声で、問いかけられた。
「愛って、どんなものに宿ると思う?」
「…………ここ、ろ」
「依月には、愛するものがある?」
「……」
「契さんへの以外でね」
─お兄ちゃんへの、愛。
─友達への、愛。
─好きなものへの、
平穏な日々への、
あったかい……愛って、何に宿るもの?
「……っ」
ぼろぼろと、身体の真ん中から溢れ出てくる。
その涙を見て、華恋は優しく目を細める。
「─うん、落ち着いたかな。神力がコントロール出来なくなってたよ。愛せるもの、愛しているもの、そんな言葉を使わなくても、あったかいものは沢山あるでしょう?」
「……っ」
「心を凍らせないで。神力で、自らを傷つける道を選ばないで。愛することを、忘れないで。自分自身を許さなくてもいいから、傷付けることはやめて」
華恋はそう言いながら、ぎゅっと抱き締めてくれる。
「幸せになっていいんだよ。幸せに、なるべきなんだよ。ねぇ、依月」
「……っ」
「大丈夫。大丈夫だよ。これまでの恩返し、じゃないけど。贖罪、なんて言ったら、あなたは怒るだろうけど。─世界が敵に回っても、私だけは最期まであんたの味方でいてあげる。一緒に、あなたが行く場所までついて行ってあげるから」
肩を軽く押すと、目が合った。
優しい瞳と、視線が交わった。
「これが、私なりの愛よ」
─華恋は、強い。
あの状況の中で、自分の感情を一番最初に切り離して、その場の最善を選択し続けてきた貴女ならって、私、私は。