それでも、あなたを愛してる。【終】
「─生憎だが、その役目は俺の役目だ」
視界が、大きな手で覆われた。
涙が途切れて、華恋に伸ばした手も絡め取られた。
「あら、早かったわね?」
「依月の事だからな」
軽やかに笑って、手が外れる。
視界が開けて、上向くと、優しく微笑む貴方。
「華恋っ」
「良いから、話しておいで。─ああ、契さん、振られたら、慰めてあげるわ。依月を」
「断る」
─このふたりは、仲良くなってるらしい。
それが嬉しいような、複雑なような。
「フフッ、依月、深呼吸。さっきの言葉は、嘘じゃないから。大丈夫だから。頑張れ」
グッと応援されても困る。
だって、こんな雰囲気の契は知らない。─怖い。
「依月、行くよ」
「……っ」
「依月?」
「…………」
ちょっと、抵抗した。でも。
「─顔色が悪い。眠れていないんじゃないの」
頬に遠慮がちに触れる指先。
冷たいそれに触れられるのが、好きだった。
「…………ちゃんと、昨日はした」
「ん。頑張ってたな」
「………………行く」
「うん」
自分勝手で、わがままで、面倒臭くて。
じゃあ、どうして欲しいの。なんて、そんなことはいちばん、私が聞きたいことだ。
どうすれば、私は満足するの。
どうすれば、私は私を認められるの。
私は一体、あとどれだけ他人の優しさを食い潰せばいいの。
「……」
外に出ると、よく知った車が止まっていた。
昔からの、依月の移動手段。
助手席の扉が開けられて、乗り込む。
数年ぶりに乗るそれは変わらず、依月の身を包み込むように、乗り心地がとても良かった。
扉を閉めると、契が運転席に乗り込んでくる。
「─寝てていいよ」
依月が車の中でよく眠れることを知っている契が、微笑みながら、そう言った。
そう言う契にはもう、怖い雰囲気は残っていなかった。