それでも、あなたを愛してる。【終】
「……そっか。強いんだね、契」
「強いかどうかは……本当に強いのは、家でのことを俺といる時は特におくびにも出さず、笑い続けた依月ですよ。それに、彩蝶さんも強い」
「そう?」
「だって、当主になるの、嫌なんでしょう?」
契の言葉に、彩蝶さんは笑った。
「勿論、めちゃくちゃ嫌だよ!みんなと違う存在になるのが、本当に嫌。自然いっぱいの中で、自由に伸び伸びと生きていきたい。一生、結婚もするつもりだってないのに、当主になったら、嫌でもさせられるかもしれない。……でも、“今”は仕方が無い。皇もすごく頑張ってることは知ってるし、何より、皇だけが大人の後始末をしなくちゃならないのはおかしいでしょ」
「大人の後始末?」
「うん。後始末。─これはね、私と皇しか知らないことかも。私の本当の両親の死因とか、皇の身の上とか、秋の、桔梗凛の代償を払ったのは誰なのかとか、神様の話、昔の真実」
「……色々と、気になることがあるんですが」
「話そうか?」
「聞いてもいいんですか?」
「良いよ。別に隠さなくちゃならないことじゃないし、契は夏の当主になるでしょ。私が当主になることを避けられない以上、私を支える存在になって貰わなくちゃ。まぁ、代わりにお願いがあるんだけど」
「お願い」
契が言葉を繰り返すと、彩蝶さんはにこーっと笑い、
「彩蝶って呼んで。私、堅苦しい話し方が苦手だから。友人になってくれるなら、普通に名前を呼んで、近所の年下の女の子に接するように接して欲しい。公的の場では望まないから」
─それはきっと、彼女なりの最大の譲歩。
四ノ宮の当主は、神と同義。
と言いつつ、下に見るものが多いあの家の中で、彼女は表情を変えることなく、これから先、ひとりで立ち続けなければならない。
それならば。
「─喜んで」
契は微笑んで、
「よろしくね、彩蝶」
不安すらも上手に押し殺してみせる、彩蝶の頭を撫でた。