それでも、あなたを愛してる。【終】
神話と愛し子
…………ふわふわする感覚。
何かに揺られているような、
あったかくて、どこか懐かしい……。
「………………?」
大きな手で頭を撫でられているような感覚に目を開けると、
「あ、起きた」
知らない男の人が、顔を覗き込んできた。
「っ!?」
「あ、危ないから暴れないで。落ちたら奈落。帰れなくなるよ」
腕に力が篭もり、とりあえず大人しくすると、彼は「良い子」と笑う。
何とか首を動かして状況を確認すると、依月は知らない男の人に横抱きにされていて、男の人は今、空を飛んでいた。
真っ白な空間の中、彼は優雅に飛んでいる。
下は真っ暗で底が見えない、彼の言う【奈落】。
「……あの、ここはどこですか」
「うーん……神様の遊び場?」
曖昧な答えだ。大体、神様の遊び場って……。
「よく分からないんですけど、帰りたいです」
依月は家を追い出されてからの記憶がなかった。
ただ、殴られた頬が痛くて。
ただ、契と会えなくなる事実が嫌で、嫌で、怖くて、仕方がなかった。
「─どこに?」
「どこ……?」
「生家からは追い出されたんだろう。家族もおらず、婚約者とも会えない、衣食住の保証されていない世界のどこに帰るんだ?」
「……」
真っ直ぐな瞳に、依月は息を呑んだ。
彼の言う通りだったからだ。
今の依月にはもう、帰る場所などなかった。
「それに、君をあの世界に帰すわけにはいかない。─このままだったら、君は世界を狂わせ、破壊し尽くし、消滅することになる」
「……え?」
意味がわからなかった。
この人は何を言ってるんだろう。
「世界を壊す……?私が?」
「そうだよ。それは確かにあった、未来のひとつ。僕は君をそんな目に遭わせたくない。だから、君にはここで真実を見てもらう。正直、見て欲しくないが……でも、それが一番、君を救い、支え、道を示してくれるだろうから」
そう言いながら、彼はとある土地に降り立った。
そして、そっと依月を下ろす。
「─手始めに、神話の時代から行こう」
手を差し出され、徐にその手を取ると、感じるのはどこか懐かしい温もり。
幼少期も、こんなふうに誰かと手を繋いだことがあった気がする。
─いや、あの家でそれはありえない話か。