それでも、あなたを愛してる。【終】
「わかった。貴方の言う通り、真実とやらをちゃんと見る」
「……随分と素直に受け入れるんだね」
「だって、ここから帰る方法もわからないから。それに、あなたの言う通り、今の私には帰る場所がない……」
『依月』
─言いかけて、頭の中で響いたのは。
「っ……」
声を思い出しただけで、駄目。涙が溢れてきた。
ぼろぼろと零れ落ちて、契のせいで自分は随分弱くなったものだと、胸が苦しい。
「……ごめん、さっきのは言葉が悪かったね。君には帰る場所があるのに。待ってくれてる、恋人がいるのに、僕の言葉は不適切だった」
「違う……」
「何が?」
「契は、家が決めた婚約者で……」
「うん」
「私には勿体ない素敵な人で……」
「うん」
「だから、だから、私」
彼がそっと頭を撫でてくれる。
その瞬間、頭に流れ込むのは幸せだった日々。
『愛してるよ、依月』
─あの時、契の言葉に、私はなんて返したっけ?
ずっと一緒にいたかった。愛していた。
でもどうにもならないこともあって、私達のことはきっとどうにもならないことで。
「─君は何よりも先に【愛されている自覚】を持つべきかもしれないね。真実を知るよりも先に」
「……え」
「じゃないと、真実に呑み込まれてしまうかもしれない。……君だけだよ。彼には、君だけ。君以外は居ないし、君以外は許されない。君以外は認められないし、君以外は彼も受け入れない」
涙を拭ってくれる彼の指は冷たくて、優しくて。
「誰よりも、何よりも。彼に愛されている自覚を持ちなさい。自信は持たなくてもいいから。愛されていることだけは、ちゃんと知っておきなさい」
「で、でも、私」
何か反論しようとすると、それを阻むように彼の手が依月の頬に触れた。
「自分にまで、嘘をつかなくていい。その全ての感情を解放することが、君が元の場所へ帰るための条件だ」
「何言って……そもそも、何?真実を知るだとか、あなたは……何なの?」
すると、彼はどこか切なそうに笑う。