それでも、あなたを愛してる。【終】



「わかった。貴方の言う通り、真実とやらをちゃんと見る」

「……随分と素直に受け入れるんだね」

「だって、ここから帰る方法もわからないから。それに、あなたの言う通り、今の私には帰る場所がない……」

『依月』

─言いかけて、頭の中で響いたのは。

「っ……」

声を思い出しただけで、駄目。涙が溢れてきた。
ぼろぼろと零れ落ちて、契のせいで自分は随分弱くなったものだと、胸が苦しい。

「……ごめん、さっきのは言葉が悪かったね。君には帰る場所があるのに。待ってくれてる、恋人がいるのに、僕の言葉は不適切だった」

「違う……」

「何が?」

「契は、家が決めた婚約者で……」

「うん」

「私には勿体ない素敵な人で……」

「うん」

「だから、だから、私」

彼がそっと頭を撫でてくれる。
その瞬間、頭に流れ込むのは幸せだった日々。

『愛してるよ、依月』

─あの時、契の言葉に、私はなんて返したっけ?

ずっと一緒にいたかった。愛していた。
でもどうにもならないこともあって、私達のことはきっとどうにもならないことで。

「─君は何よりも先に【愛されている自覚】を持つべきかもしれないね。真実を知るよりも先に」

「……え」

「じゃないと、真実に呑み込まれてしまうかもしれない。……君だけだよ。彼には、君だけ。君以外は居ないし、君以外は許されない。君以外は認められないし、君以外は彼も受け入れない」

涙を拭ってくれる彼の指は冷たくて、優しくて。

「誰よりも、何よりも。彼に愛されている自覚を持ちなさい。自信は持たなくてもいいから。愛されていることだけは、ちゃんと知っておきなさい」

「で、でも、私」

何か反論しようとすると、それを阻むように彼の手が依月の頬に触れた。

「自分にまで、嘘をつかなくていい。その全ての感情を解放することが、君が元の場所へ帰るための条件だ」

「何言って……そもそも、何?真実を知るだとか、あなたは……何なの?」

すると、彼はどこか切なそうに笑う。



< 29 / 186 >

この作品をシェア

pagetop