それでも、あなたを愛してる。【終】
「─それでなんで、わざわざ“始まりの地”へ行くって話になるんだ?」
契からしてみれば、今は依月のことで頭がいっぱいいっぱいなのだろう。
その気持ちは理解したいが、ここで暴れていても何も変わらないし、だからといって、四ノ宮に行ってもきっと、何も救われない。
ならば、その街に行った方が良い。
「あそこには、かつての冬の分家だった椿家がいるんだ。彼らは四季の家との関係を完全に絶っていたが、母さんが椿家当主夫人に可愛がられていた関係で、今も定期的に手紙を交換しているらしく、四ノ宮のこともどこかで聞いたのか、俺達を招待してきたんだ」
「なんで、俺達?叔母さんや橘家が招待されるなら、話はわかるけど......」
凛と千景はいとこ同士である。
凛は義務教育を終えたばかりの年齢だが、母親を病気で喪った1年前、桔梗家の当主となった。
まだ若いことを理由に馬鹿にされることも少なくない凛は、可愛らしい容貌にはそぐわないほど口が悪く、足癖も悪い。
しかし、伯母さん─千景の母の異母姉─に厳しく育てられたためか、凛は仕事の手腕も良く、器用に学業と並行して、当主業をこなしている。
「その感じからして、新しい、四ノ宮の主がそこにいるんだろう?」
千景の話を聞いて、暫く黙っていた契が言った。
「主って......」
「小耳に挟んだ程度だが、こちらではシラケた新年の催し、そちらの街では奇跡が続いたと」
契の言葉に、千景は驚いた。
大雑把で面倒臭がり屋な契が、きちんと情報を頭に入れていたからだ。
季節は春、4月半ば。
正直、3ヶ月前の新年のことを知っている位で驚きたくは無いが、次期当主になるとは思えぬくらいに契は適当な人間だった。