それでも、あなたを愛してる。【終】
「…………さて、と」
彩蝶は、深呼吸をした。
襖の向こうは雑音ばかりで、多分、彩蝶を蹴落とすための話し合いをしているのだろう。
(大いに結構。どうやって蹴落としてくれるのか、その腕並みを拝見したい)
正直、何があっても大丈夫、なんて言えるような、屈強な身体は持っていない。
19歳の小娘には、本当に重たいけど。
「─入らんの?」
襖に手をかけて固まっていたら、後ろから声をかけられた。顔を上げると、ニヤついている男。
「誰?と聞きたいところだけど、ここには知らない人しかいないし、興味もないからどうでも良いわ」
無視して、襖を開け放つ。
その瞬間、中で話し込んでいた奴らの視線が一斉にこちらを向き、彩蝶の身体を突き刺した。
彩蝶は父に教えられた笑顔を披露しながら、
「─お初にお目にかかります」
四季の家流の作法で、お辞儀をする。
すると、すぐに下品な顔をぶら下げて近寄ってくる。
「あなたに当主の座は重いでしょう」
「まだ、遊びたい盛りでしょうし」
「それに、父君である先代は─……」
─耳に飛び込んできた、数々の言葉。
彩蝶はその中から厳選して、にっこりと笑った。
「あら」
口元に手を当て、自分を偽り、上品に。
「わたくしの耳を、そのような戯言で穢すつもり?」
母から貰った扇子を懐から出して、伸びてきた手に扇子を添えて。
「わたくしの許可なく、わたくしの身体に触れようとするなんて─……無礼なこと」
誰もが息を飲む気迫を纏い、微笑む雪城彩蝶─改め、四ノ宮彩蝶は、普通の子どもであった。
両親に大切に愛され、妹と仲良く、地域の人々にも可愛がられていた彼女は、特別な力など持っていなかった。