それでも、あなたを愛してる。【終】
実の父親は、四ノ宮の先代当主。
無能で、流されやすく、人に利用されるタイプだった実父は己を律する力も弱く、政略で周囲に流されて迎えた正妻を蔑ろに、ひとりの女を愛する。
(愚かな人だったんだろう、なんて、ね)
実の母親は、四ノ宮の裏とされる司宮の長女。
由緒正しい家で育った彼女は何故か、彩蝶の愛する母とは真逆の存在に成れ果てた。
(愛されないのは、悲しいけど)
─どちらにせよ、ふたりとも故人だ。
実父を恨みすぎた実母が、実父を殺して、自殺したから、もう生きていない。会うことはない。
そんな醜聞すぎる醜聞を、世間様に隠した彼らにとって、彩蝶の存在は邪魔であろう。
無能な当主は、いなくなった。
ヒステリーなお嬢様もいなくなった。
覇権を握れると思った野心家たちにとって、血筋が絶対なこの家の当主になりたい彼らにとって、由緒正しき血を持つ彩蝶は邪魔なのだ。
でも、彩蝶が当主にならなければ、間違いなく、四ノ宮は暴走する。
なりたくなさすぎて、拒絶は長いことしていたが、一応、きちんと頭で理解はしているのだ。
だって、始まりの人─始祖を奉り、守護する【お役目】の雪城家で育ってきたのだから。
「─さあ、何が視える」
こんな人達に任せていたら、
「わたくしを前に、なにを思う?」
四ノ宮は崩壊し、
「目を逸らすな、」
四季の家は乱れるだろう。
「わたくしを見て」
そして、こいつらは自身の権限を乱用する。
だから、その前に封じ込む。
(こいつらが、私の大切な友人を傷付ける前に)
「そう、良い子」
今度こそ、大切な人を守るために。
「『契約其の1 わたくしを神と崇めよ』」
─その為ならば、どのような契約でも結び、どのような因果にでも身を落とそう。
失うものなど、もうほとんどこの手にない。
彩蝶の言葉に呼応するように、彩蝶の影からは沢山の蝶が顕れた。そして、舞い、鱗粉が─……。
「─さて、邪魔はいなくなったわ。わたくしとゆっくりと、お話しましょうか?」
人々が崩れ落ち、意識を失った姿を見届けて、彩蝶は平然とした男に微笑みかけた。
「夜と死を司る、夜霧(ヤギリ)さん」
─男は楽しそうに笑い、頷いた。