それでも、あなたを愛してる。【終】
手折られた花
「─うん。問題なさそうだね」
眼鏡をかけた医者は、聴診器を手に微笑んだ。
「ありがとう、朝霧さん」
「どういたしまして。これも仕事の一環だし、気にしないで」
「四ノ宮専用の?」
「君専用の」
布団の上で儚げに微笑む美少女は、自身の膝の上で眠る男の頭を撫でながら、フフッ、と、笑った。
「貴方みたいな優秀なお医者さんを独り占めしていたら、私、お姉ちゃんに顔向けできないわ」
「おや、もう、お姉さんに会ったの?」
「残念ながら、まだなんだけど。─今はこの人を優先したいし、正直、まだ足腰が」
「ずっと寝たきりだったし、仕方ないね〜」
「これでも、四ノ宮の加護で健康のつもりよ?」
そう言いながら、美少女は彼の頭を撫でる。
「ねぇ、朝霧さん」
「んー?」
「私、お姉ちゃんと仲良くなれるかな」
少し不安げな顔。
母違いの姉に会いたいと願うのは、変だろうか。
「なれるよ。僕も会ったことないけど、彼女を育てた家族は知ってるんだ。大丈夫。伊達に長く生きてないから、ね」
美少女は頭を撫でられて、擽ったそうに目を細める。
「朝霧さんは、何歳になったんだっけ。会ったよね。私と。向こうでも」
「会ったね。─どうだった?君の父は」
「気の弱い人だったわ」
「君のお姉さんのお母さんは?」
「…、少し、怖い人だった」
「怖かったの?」
「うん。私、お母さんにそっくりみたいで」
「そう」
「泉に、突き落とされちゃった」
美少女は、えへっ、と笑う。
「運良く、ここに帰れた……わけじゃないんだよね。お父さんや正妻の方が亡くなって、皇が頑張り続けてくれて、お姉ちゃんがここに帰ってくる決断をしてくれたから、私はここに流れ着いた。突き落とされたタイミングも、丁度良かったんだろうね。…皇、ごめんね」
膝の上で、泣きながら眠る青年。
「よく頑張ったんだよ。褒めてあげなね」
「うん♪」
「いっぱい、いっぱい褒めて、甘やかすんだよ」
「もちろん。その為にさ、朝霧さんに調べて欲しいことがあるんだけど」
「何?」
「私って、戸籍あるのかな」
「……言われてみれば。調べておくね」
美少女からの質問に、朝霧は頷いた。