それでも、あなたを愛してる。【終】
「お願いしてもいい?面倒そうだけど」
「もちろん。年寄りは上手く使うに限るし、使わないのも自由だよ。あと、年齢は忘れた。ごめん」
「アハハッ、別にいいよ〜思い出したら、教えて。お祝いするから」
「えっ、もう200歳は確実に超えてるんだけど」
「え〜良いじゃない。何歳でも」
お祝いは嬉しいよ、そう言って笑う美少女を見て、朝霧は彼女の母親を思い出す。
生まれつき身体が弱かった彼女は、美少女曰く、気の弱い男に突然求婚され、目を丸くしていた。
朝霧もその場にいたので、よく覚えている。
『え...でも、貴方、既婚者でしょう』
『離婚する!』
『いや...既婚者と愛を紡ぐ趣味はないし、私と結婚するために離婚するとか言う人に愛を囁かれても、私は応えないわ』
全力で引いた顔をして、美少女と同じように布団の上で首を横に振っていた。
『私、世間知らずだけど。そこまで馬鹿じゃないの。政略結婚だったとしても、奥方様はあなたを愛しているのでしょう。それに、お嬢様が生まれたばかりじゃない。不誠実よ』
それでも、男は諦めなかった。
『君がいい。君じゃなきゃ...君は私の運命なんだ!私は君じゃなきゃ...』
『子どもみたいなわがままね。なら、どうして、政略結婚に応じたの。どうして、娘を作ったの。どうして……昔、私の告白を断ったの』
『......』
彼女がそう言った瞬間、男は目を見開いた。
そして、言葉を失い、俯いた。
『私はもう、先が長くないわ。だから、あなたといたかった。でも、あなたは私のことを振ったわ。それなのに何故か私を、私達一家を、この家に縛り付けた。─もうそれでいいでしょう?四季の家に縛り付けられて暫く、お父さんもお母さんも死んだわ。...まだ、満足しないの?』
彼女─雪城彩花(ユキシロ アヤカ)は泣きながら、男を見た。
『私のことを馬鹿にしないで。安い言葉に甘え、降るほど愚か者になれ下がる気は無いわ。これ以上、私から奪わないで。私が逃がした、私の唯一の家族、雅人兄さんに何かしたら許さないから』
男は震えて、俯いていた。...泣いていた。
『朝霧、お見送りして』
そう言われて、朝霧はゆっくり立ち上がる。
─男は抵抗の意思は見せなかった。
しかし、悪夢はその後、何度か訪れる。