それでも、あなたを愛してる。【終】
男は─四ノ宮優真は狂い、正妻に怯え、そして。
『あんたがあの人をたぶらかしたんでしょう!』
正妻は酷く、酷く、彩花を恨んだ。
彩花は静かに否定しながら、正妻を躱す。
正妻はそんな彼女の態度も気に入らなかったのか、彼女を殴る時もあった。
『……記憶を無くせるなら、無くしたわ』
ある日、怪我の治療中に彼女は呟いた。
正妻と会っている間、“例え何があっても手を出さない、近づかない”という契約を結ばされた朝霧にはどうすることも出来ず、治療だけで精一杯。
『今日はね、あの人に色目を使ってるって。私、そんなにあの人のことを愛おしげに見てる?』
『......』
『...否定してよ、朝霧』
泣きながら、頬を腫らした彼女は布団の上で膝を抱え込んで、嗚咽した。
朝霧に、人の心は分からなかった。
分からないから、何も言えなかった。
でもそれは、彼女を突き放す態度だったかもしれない。
『......ねぇ、朝霧』
『なあに』
『もうひとつ、契約を交わしたいの』
『これ以上は、君の身体には毒だからだめだよ。契約は持ち掛ける側─王でも、受ける側─臣でも、どちらでも負担が大きいことは知っているだろう?』
『......』
ここ数ヶ月、丁度、朝霧が【役目】から帰ってきた後くらいから、彼女の様子はおかしかった。
部屋に南京錠をかけて寝込んでいた彼女からは笑顔が減り、そして、泣き暮らしていた。