それでも、あなたを愛してる。【終】
「ほら、契も早く」
凛たちも上がったところで、千陽に手招きされる。
「ああ」
契は頷いて、家に上がる。
静かで、涼しい家の中。
外では蝉が元気に鳴いているのに、この家の中では聞こえないのは、結界の強度によるものだろう。
─依月が居なくなって、1年半。2回目の、夏。
夜霧と朝霧に案内され、向かった先の居間。
「お、来たか」
先客がいた。
「久しぶり!」
出迎えてくれたユエは、既にお菓子を食べていた。
いろははにこにこ笑い、その横で皇も会釈する。
この1年半の間、多くのことが変わった。
様々なことでバタバタとしていたが、契は父から正式に継承し、朱雀宮家の当主となった。
千景は未だに決心がつかないことや、まだ自由でいなければならないかも、という、ユエからの助言で後継者のままだ。
そして、冬の紫苑も行方不明のまま。
─それでも、依月が居なくなって絶望し、荒れていたあの時期と比べれば、仲間と呼べる相手は増えたと思う。
少なくとも、四ノ宮家が管理する時の泉に身を投げようなんて考えは無くなるくらいには。
「今日はただの集まり?」
「一応、そう聞いてるけど」
─開催を宣言した、四ノ宮家当主は不在である。
「え、彩蝶来るよね」
「お姉ちゃん来る!忙しそうだったけど......」
この1年半で存在が四季の家のなかで明らかになったことに加え、彩蝶と超仲良くなった彩蝶の異母妹の彼女は、目を逸らす。
「でも、絶対来るよ。2日前の一家不審死事件で、バタバタしてるだけだし......」
「え、何それ。聞いてないんだけど。千景たちは聞いてる?それなら、別にいいんだけどさ」
一家不審死事件─朱雀宮の情報網で、それっぽい情報は入手していた。が、詳細は知らない契は千景と凛を見た。ふたりは首を横に振る。
後継者候補の千景が知らないならまだしも、当主である凛まで知らないとなったら、かなり、慎重に事件は片付けられているということだろう。