それでも、あなたを愛してる。【終】


「ええ。あの子が望んだの。そのためなら何だってするから、依月ちゃんと結婚させてくれって。ほら、今の四季の結婚って、なんだかんだうるさいけど、結局自由じゃない?私達も恋愛結婚だったし、依月ちゃんが氷見家の養子ということは知っていたけれど、別に気にする問題じゃなかったの。だって、契が望んでいるもの。両親として、あの子の幸せを願っていたわ」

「千景は結構、海外とかに行ったりすることが多かったから知らないだろうけど、あのふたり、婚約者以前に、普通に恋人同士だからね」

「えっ」

「決して、契の一方的な想いじゃないんだよ。依月は分かりにくかったけど、契への想いは嘘じゃなかった。普通にデートもしてたし、キスも、それ以上のこともしてたよ。本当に幸せそうな、ただの恋人同士だった。契の腕の中だけ、依月は安心したように眠れてた。契があげたものを取り上げられたくないからって、朱雀宮家に置いたりして。本当に、本当に想いあってたんだよ」

「そうね。依月ちゃんの結婚後の部屋を、本家にるんるんで用意しようとしたら、契に怒られたわ。同室にするんだって」

「それはどうなんだと突っ込んだけど、無駄だったよね。依月は何も言わなかったけど」

静さんと凛の話を聞いていると、千景は契サイドのことは何も知らなかったことを実感する。

千景は基本的、話すことが得意じゃない。
見た目や双子の弟の陽気な雰囲気で、双子の弟とは反対の厳かなイメージを抱かれがちだが、実際、何を話していいのか悩んでいるだけだったりする。

依月は契がそばにいない時、いつもどこか落ち着かない顔をしていた。
だから、契がいない間は、千景がそばに居た。

千景からしたら、何を話せばいいか分からない相手が寄ってくることを防げたし、落ち着いた雰囲気の依月の隣にいるのは、心地良かった。

『ねぇ、千景』

『うん?』

『千景の傍は、とても落ち着くよ。いつも、そばに居てくれてありがとう』

『...お前がそれをどういうつもりで言っているのか、俺はそれを喜んでいいのか、そうじゃないのかわからんが。そんなこと言ってるの、契に聞かれたら、とんでもないことになるぞ』

契は夏の家の人間らしく、愛が重かった。
春の家の分家の娘と付き合っている凛は、いつも穏やかで、宝玉に触れるように恋人を大事にしている一方、契は依月が他の人間と一緒にいるのを嫌がった。

自分がそばにいられない時は、幼なじみである千景や凛達にそばにいることをお願いしてきたが、それ以外の、契が認識していない相手が依月に近づいた時は本当に酷かった。

『フフッ、千景なら、大丈夫だよ。契も分かってる。だって、千景には幼い頃から好きな人がいるでしょう?』

人の感情の機微に敏感な依月には、隠し事が出来なかった。そういう、女だったから。

千景と同じように、冷たく見られる容姿。
環境のせいで変わらぬ表情が、契の前ではよく花開き、幸せそうで美しかった。

『想いが、叶うといいね』

─きっと、契が依月を愛したのは必然だった。

うだるように暑い夏は、寒い冬に焦がれている。

寒い冬が、春を待ち侘びているように。


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