それでも、あなたを愛してる。【終】
「……依月と連絡が取れなくなったのは、約1か月前。冬の分家・氷見家に本当の娘が帰ってきたことを機にいなくなり、依月がいなくなったから、と、契にその本物の娘との婚姻を氷見家が求めている姿を見る限り、氷見が一枚噛んでいるんだろうけど」
凛が考え込む。
凛は基本的に何事にも無関心だが、依月の件は別らしい。幼い頃からの仲も影響しているだろうが、凛の場合、依月が自分の恋人の友人だからだろう。
「静さん」
「?、なあに。千景さん」
「契が一目惚れしたのなら、それはいつ?いつ頃、正式にあのふたりは婚約を結んだんだ?」
千景がそう尋ねるには、理由があった。
何故なら、千景と凛は幼い頃、契や紫苑、各自兄弟姉妹を合わせて遊んでいた。
そこに依月もいて、楽しかったけど、今思えば、宗家の子供同士の遊びの場に、分家の彼女がいること自体がおかしい話。
「いつ頃……そうねぇ、うちの子が6歳だったかしら。初めて連れて行ったパーティーで、依月ちゃんは作り物のように微笑んでいた。既に四季の家を見放して、大部分は隠居していたけど、椿家はまだ機能していたわね。……氷見家が分家になったのは、契が10歳の時。椿家が完全に分家という立場から撤退して、氷見家が分家になったことで、二人の婚約が頭の硬い人達に認められたの。でも、依月ちゃんはパーティーで出会ったあとからよく、ここに遊びに来てた」
「だから、俺達の記憶に依月がいるんだ」
凛が納得いったように頷く。
「年齢の差があるから、俺の記憶は曖昧なんだけど。3歳か、4歳あたりに婚約を結んだって言われると、なんかそんなお祝いを両親がしてた気がする」
「ええ、お祝いして頂いたわ。可愛い娘を迎えられて良かったわね〜!って、そうやって、春と秋と盛り上がってた」
─対立しているように見えないこともないが、実際、四季の家同士は仲が良い。
同じ苦悩を味わっているからか、不仲なところは本当に見た事がない。
もっとも冬の柊家先代、紫苑の父親にあたる人間とは不仲に近いものがあったようだが、それは相手が役目から逃げ回り、文句ばかり言う人間だったから、見放していたまでとのこと。
椿家が柊家の元を去る理由には十分なほど、先代は酒癖も女癖も悪く、素行が酷かった。
「懐かしいわぁ〜」
凛の両親は、もういない。
凛達がまだ幼い頃、父親は行方不明に、母親は病死しているから。
凛は幼くして当主になったが、それを感じさせない立ち振る舞いで人々の上に立つ。
静さんはそんな凛達の親代わりとして振る舞うことも多くて、凛は朱雀宮家の人々には、特に心を開いていた。