それでも、あなたを愛してる。【終】



「第一に、俺、死んでないからね。人間として死んだ覚えないの。刺されて突き落とされたけど、化け物に食べられた時は終わったと思ったけど、なんか生きてるし、運が良いのかな」

「それ、化け物に食われた瞬間にちゃんと死んでる説ないか?」

「うわ、ひど……綴ってば、夢も希望もくれないんだ……」

「いや、お前は俺に何を求めている。お前がどうであれ、俺はもう死んでるし、神の世界にこの身は馴染んで、今やお前に授けられた【真偽の裁定者】だ。世辞とか好かん。そもそも、ここに巣食っていた、ユエの悪の半身をその身に取り込んで、今もなんてことない顔で笑ってるとか、普通に不気味だろ。人間じゃない」

ボロカスに言われ、刹那は両手で顔を覆った。

「ひどいよ〜俺、普通に今度、依月と外でウィンドウショッピングしようと思ってたんだけど……?」

「そうか。それは、いいな。というか、今も時折抜け出して、外で遊んでいるだろ……その行動に、人間とか神とかは関係ないと思う。外に遊びに行くのは、他の人間の運命を歪ませない範囲なら、好きにしろと思ってる。美言や美幸に美味しいお菓子やおもちゃを買ってきてくれるしな」

「関係ないのかな〜、俺、人間でいたいのにな」

刹那は、生きていたかった。
婚約者と、限られた時間の中で笑っていたかった。
可愛い妹を守って、自分の子どもを抱いてみたり。
夢は沢山あった。やりたいことだって。
─大人の、人間のエゴで、全て奪われたけど。

「……そうだよな」

刹那の呟いた言葉を聞いて、綴は何を思ったのか。─ああ、別に綴にこんな顔をさせたいわけではなかったのに。

「まぁ、歳を取らないのは良いけど」

それでも、いつかは訪れる、婚約者が居なくなる世界を眺めて、永遠に死ぬことのない生き方は耐えられない自信しかないので、そこは創世神に責任を取ってもらう予定だ。

「大体ね、【運命の調律者】なんて存在、この世界には要らないんだよ」

─だって、刹那が現れる前までは、そんな存在なかったのだから。
それでも、世界は上手く回っていた。

「でも、今は【運命の調律者】たるお前は存在していて、運命を調律している。初めから存在しなかったから、誰も考えなかっただけだ。不要だと、思ってしまうだけだ。実際、お前がその地位で悠々自適に運命を調律することで助かった人間は多くいるし、正しく裁かれた者もいる。世界を美しいまま保存することは不可能だが、どうせなら、最愛の人が生きる世界は少しでも綺麗な方が良いだろう?」

「……ま、それもそうだね」

いつだって、綴は下向きかけた刹那の顔をあげさせてくれる。これじゃあ、落ち込んだりする暇がなくて、ずっと前向きに生きていけてしまう。

(悪いことじゃないんだけどね〜?)

運命を書き換えるために、この間はちょっと無理やり干渉しちゃった気もするけど、まぁ、今は特に問題も出ていないし、見守る他ない。

「─あ、そだ。彼ら、ここの入口を探すって」

「あら、そうなの?」

「うん。という訳で、美言は【黎明の案内人】として、お仕事お願いね。美幸は、お母さんを手伝ってあげて。綴は【裁定者】として、彩蝶の道を塞ぐものがいたら天罰を。【光明の守護者】であるステラは、【闇世の監視者】であるルナと協力して、彼らの選択を支えてあげて。別に、邪魔なんてしなくていいから。多分、ちょうど良い時期が来る。その時、直接、契には会いに行くし」

「今じゃなくてか?」

「今じゃないよ。だって、依月がまだ帰れない」

「コントロール、そんなに難しいのか……?」

「というより、これまでは感情も含めて、能力を封印していたから……その、唐突な情緒の発達?に頭がついていってないのか、ずっと泣いているんだ。あの子が辛い思いをする前に、と思って、こっちに一時的に引き取ったけど……思い切りすぎたかな。早かったかな。でも、今を逃したら、結婚しちゃうところだったしな〜」

「氷見の当主たちを消して、今度は、氷室一家殺害事件の関係者を消して、そうやってじわじわとどこまでやる気?」

「え?俺は優しくないから勿論、徹底的に、だよ。父さんと母さんを殺して、可愛い可愛い、家族で待ちわびてた依月をあんな目に遭わせて、楽に死ねるなんて思わないで欲しい」

何なら、何度も生き返らせて、生き地獄を味合わせて、懇願しても許さない。

彩蝶をひとりにした。依月を追い込んだ。

家族の最期のとき、父さんが最後の力を振り絞って、依月にかけた祝福はもう解けかけている。


< 73 / 186 >

この作品をシェア

pagetop