それでも、あなたを愛してる。【終】
(─化け物に喰われて、それでも正気を保っているという自分は、本当はとっくの昔に正気は失っていて、化け物に成れ果てているんじゃないか……と、たまに思う時がある)
大切なもの以外がどうなっても良いなんて、【運命の調律者】たる自分の思考であっていいはずないのに、それでも、やっぱり世界がどうなろうと知ったことじゃない。
「─刹那?どこに行くんだ?」
「依月のところ。ひとりは寂しいから」
「そ。わかった」
その場は彼らに任せて、彼女が生活している空間に入る。
空間の真ん中、部屋の真ん中のベッドの上で、彼女はシーツを頭から被り、ボロボロと泣いていた。
「─依月。おはよう」
「……」
「今日は何をしようか」
「……」
話しかけても応えない。─もうずっと。
彼女は自分の心と向き合い続けて、壊れかけている。
「大丈夫だよ。守るからね」
人は、人の中で大きくなっていく。
嬉しいこと、悲しいこと、嫌なこと、楽しいことや、幸せとか。
美味しいものを食べたり、綺麗なものを見たり、好きな物に触れたり、自由にどこまでも羽ばたいて。
泣いたり、笑ったり、傷ついて、そうやって、人は心を強くしていく。成長していく。
─依月は、この19年間、その機能を全て止めていた。それは 能力で身を滅ぼさないため、両親からの最期の祝福。
能力が生まれつき強かった依月が、四ノ宮に狙われることはわかっていた。だから、刹那がスケープゴートとなって、依月を守る予定だった。
年の差もあって、自分の身を守れる強さは既に手に入れていたし、可愛い妹の為ならば、そんなのは苦でも何でもなかった。
「依月……」
分かっている。彼女は朱雀宮の元へ返すべきだ。
家族を失い、感情を封印してもなお、能力がほぼない状態であってもなお、彼は依月を愛した。
それを運命と呼ぶのかどうかは彼の人柄を知らない以上、刹那にはまだ分からないが、彩蝶への歩み寄り方からしても、彼は大人だ。
能力の強さも申し分なく、どこか、自分との繋がりすらも感じてしまう。
(依月には見せていないみたいだが、あの人の良さそうな笑顔の奥は、執着の塊)
だからこそ、彼は大した自制心の持ち主だと思う。自分のそういう綺麗ではない部分を、徹底的に隠し切る姿には、素直に感心する。
「─ああ、そうだ」
刹那は部屋の中にある、小さな引き出しをあけた。
精神体でいるこの世界。刹那が依月が人間らしく生活出来るように、と、取り急ぎ調えた空間。