恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と

レシピ3:休日に輝かしいサプライズ

 休日は、どこかに出かけるということもない。こういう日だからこそと、アラームをかけずに寝たら昼前になっていた。
 そこから何かするという気力もなく、あと数時間もすればこの休日も終わってしまう。
趣味といえばサブスクで映画やアニメを見るぐらいで終わってしまう。
 こういうときにSNSを見るのはやめた。
 煌びやかな世界が広がり、自分にはないもので埋め尽くされたその場所に、羨ましいと感じてしまうことが多いからだ。
 そうじゃなくても、友達は結婚や出産を経験し、家族というひとつの形を持つ子が多くなった。
 そうなると、相手すらいない自分のことを重ねてしまう。
 結婚があまりにも遠い。だからといって結婚がしたいわけでもない。
 誰かと生きていくということは、それなりにルールが生じてしまう。自由気ままに生きていられるのは、独り身だからという点も大きい。
 とはいえ、人はないものねだりだ。
 誰かに寄り添って甘えたいときもあれば、好きな人との間に生まれた子どもを見てみたいという願望もある。そこにどれだけの苦労があるかは、経験していない人間からすれば分からないことばかりだ。
 3歳になる女の子を持つ友達が「朝は子どもが目覚まし」と言っていたことを思い出しては、この体たらく生活が情けなく思う。
 好きなように寝られなくなるのも惜しい。でも一生独身なのかという不安もある。

「あ……何もなかった」

 何かお腹に入れようと冷蔵庫を開けたものの、中身はすっからかんだ。
 毎日のようにお惣菜やら冷凍食品で済ましているのだから、こういうときに食べられるものがあることがありえないのだけど。
 無駄に冷蔵庫を開けてしまう癖はなかなか直るものではないらしい。

「休みの日でも成川さんは無駄にすることないんだろうなあ」

 ふと、温かなご飯と、それを並べてくれる成川さんを思い出した。
 休日も朝しっかり起きて、ご飯を作るという充実した日を過ごしているのだろう。私とは大違いのはずだ。

「夜ごはんもないし……さすがに買い出しに行こう」

 最寄りのスーパーまでは徒歩三分。近い場所にあるので、スッピンに黒いキャップを被り、ラフな格好で出かけた。足元はサンダルだ。近場で、なおかつスーパーならこれで十分。
 店内に入るとカゴを手にし、野菜コーナーを素通りし、肉と魚は見向きもせず、お惣菜コーナーへと向かう。
 けれどちょうど昼時だからか、ごっそりないところもある。かぼちゃコロッケがひとつ残っていた。これはラッキーだ。でも、本当にここで買うべきかも迷ってしまう。とりあえずほかも見て回ろう。
 そうしてインスタント食品が並ぶ場所でいくつか手に取り、それから缶酎ハイも忘れずにカゴへと入れ込む。おつまみは何にしようか。するめもいいけど、ビーフも捨てがたい。とりあえずとカゴにどんどん入れ込み、やはりかぼちゃコロッケのことが忘れられずに戻ったところで、

「ない」

 最後のかぼちゃコロッケはすでに誰かが手にしてしまったらしい。
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