恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
「悪い、すげえ真剣に言うから、よっぽど好きなんだなと思って」

 ──笑った。
 成川さんが笑うたびに、何かが増えていくような気がしていた。なんだろう、普段笑わない人だから物珍しさはあるけど、それよりもなんだか別の感情が生まれる。
 それは嬉しいに一番近いのだろうけど、でも何が増えていくんだろう。

「し、真剣にもなりますよ。いくつかの好物ではあるので」
「一番じゃないんだな」
「一番です。でも一番がほかにもいろいろあるので」
「たとえば?」
「そうですね……小籠包とか、カルボナーラとか、スパイシーカレーとか」
「ジャンルバラバラだな」

 思いつく限りを挙げてみたけれど、確かに統一感が一切ない。ここにかぼちゃのコロッケが入ってくるのだから、自分の好みがイマイチわからない。

「成川さんは好物ありますか?」
「これっていうのはないかも」
「じゃあ本当に作るのが好きで作ってるんですね」
「まあ、誰かに作るのも悪くないって気付いたしな」
「それは……」

 私も入れてもってるんですかね、と言いかけて、このあとに続くであろう言葉を本当に入れてしまっていいのか悩んだ。
 きっとよかったとは思う。でも、よかったのかな。

「そろそろだな」

 成川さんが言ったようにやがて、鍋の中からかぼちゃの甘い香りが漂ってくる。
 その香りに浮かんだ言葉を流し、私は鼻をくんくんと動かす。

「いい匂い」

 鍋のふたを開けると、成川さんは箸でかぼちゃの柔らかさを確かめる。
 箸がスッと通るほどに柔らかくなったかぼちゃは、すぐにボウルに移され、木べらで丁寧に潰されていく。
 ホクホクとしたかぼちゃが滑らかに潰され、そのオレンジ色のペーストがどんどんクリーミーになっていく。この工程を面倒だと思ってしまっていたのに、成川さんの手つきを見ていると、なんだか簡単そうでやりたいと思う。
 今度は私ひとりで作ってみるのもいいのかもしれない。
 そこに塩と少しの胡椒、それからナツメグが投入されていく。
 次に、成川さんが冷蔵庫から取り出したのは、刻んだ玉ねぎと炒めたひき肉だった。

「あれ、この玉ねぎって何かに使う予定だったんじゃないですか?」
「炒飯を作るつもりだった」
「え、使っていいんですか?」
「どっちも作れるだけの量はある」

 刻んだ玉ねぎの半分をかぼちゃのペーストに加え、さらによく混ぜ合わせさっていく。
 玉ねぎの甘みとひき肉の旨みが加わることで、かぼちゃのペーストが一層濃厚な味わいに変わっていくのが見て取れる。
 その後、冷ましたかぼちゃのペーストを手早く丸め、小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつけていく。
 ここまで一度もレシピらしいものを見ていないから不思議だ。

「あとは揚げるだけだな」

 成川さんがフライパンに油を注ぎ、火をつける。
 やがて油が温まり、かぼちゃコロッケがひとつ、ふたつと油の中に沈められていく。
 ジュワッと音を立てながら、黄金色に色づいていく様子に胸が躍る。すでに美味しそう……!
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