恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
「いい感じだな」
「いい感じですね!」

 必要もないのに合いの手を入れる形になってしまったけど、成川さんは「だな」とまた笑った。和やかな空間に、ぱちぱちと油が跳ねる音が響く。
 やがて、こんがりと揚がったかぼちゃコロッケが、キッチンペーパーの上に並べられると、香ばしい香りが部屋中に広がった。

「家で作れるクオリティなんですか、これは」

 信じられない思いで綺麗に並んだコロッケを見つめる。
 冷凍のコロッケですら焦がしてしまうほどなのに、ここまでなんの失敗もないどころか、お家ごはんにしてはびっくりするようなものが出来上がってしまった。

「橘って前も言ったけど大袈裟だよな」
「だから大袈裟じゃないんですよ」

 これをパパっと作ってしまう成川さんの手際には何度見ても驚いてしまうし、感動すら覚えてしまう。
 そもそも人にごはんを作ってもらうことがどれだけ幸せか。
 その後は残っていた玉ねぎで炒飯を作ってもらい、テーブルにはかぼちゃコロッケと、香ばしい玉ねぎの炒飯が並んでいる。

「……本当に私が食べていいんですか?」
「食べさせずにただ連れてきたわけないだろ」

 苦笑した成川さんに、それもそうですよね、と恥ずかしくなる。けれど前回同様ただご飯を食べさせてもらうというのは気が引けてしまう。

「ほら、食べるぞ」
「あ、はい」

 ひとまずここは温かいご飯を食べさせてもらおう。いただきますと、手を合わせてから早速かぼちゃコロッケを箸で割った。
 衣がサクッと音を立てて割れ、中からはホクホクのかぼちゃが顔を覗かせる。

「お、美味しい……!」

 思わず目を閉じて、かぼちゃの甘さを堪能する。出来立てで、しかも手作りのコロッケ。手間がかかっているからと、ゆっくりと味わう。

「味が合うならよかった」
「成川さんすごいですよ……コロッケまで作れるなんて」
「レシピ教えたら作れるから」

 そう言われても、あの手際の良さを真似しようと思えばすぐにできるものではない。
 それにこれは、成川さんが作ってくれたコロッケだから意味がある。
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