恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
 メインディッシュは、パプリカチキンソテー。
 鶏もも肉にパプリカパウダーと塩、にんにくをすり込んでじっくり焼き上げたそれは、皮がパリッと音を立てるほど香ばしい
 お皿には、オリーブオイルで焼いたズッキーニとパプリカが赤と黄色と緑が美しく彩りを添えていた。
 その隣には、スパニッシュ風のパプリカポテトサラダと、ライスは、オニオンライス。

「パプリカパウダー祭りですね。天才なんですか?」
「だからいちいち大袈裟なんだよ」

 これを手際よくパパッと作ってしまった成川さんは一体何者なのだろうか。
 いい加減、お店を出してくれないかな。そしたら毎日でも通うのに、それから毎日でも成川さんに会いに行けるのに。

「食べていいですか」
「どうぞ」

 いただきます、とふたりで手を合わせテーブルを囲む。
 どれを食べてもおいしくてたまらない。私では到底使いきれなかったパプリカパウダーが見事に使いこなされている。

「……すごいです、幸せです」
「それはよかったです」

 成川さんに敬語を使われるとなんだか違和感で、でもその空間が楽しくて、心も身体も満たされていく。
 ああ、ずっとこの時間が続いてくれればいいのに。

「んで、なんでパプリカパウダーを買うことになったんだ」

 美味しくご飯をいただき、恒例とさせてもらっているお皿洗いに勤しんでいると、成川さんがテーブルを拭き終えてこちらに歩いていた。

「最初は予定していなかったんです。普段行かないちょっとお高めのスーパーに寄っただけで」

 成川さんにご飯を作ろうと思ってました、とはさすがに言えない。
 なんとなく誤魔化しながら、泡でお皿の汚れを落としていく。

「それから、ものすごい美人さんに会いまして。そのお方がパプリカパウダーを手にしたんです」
「……まさか、それを見て買おうとしたわけじゃないよな」
「そのまさかで恐縮なんですが、でも、使いやすいとオススメしてもらって」
「使えてないだろ」

 成川さんの言う通りだ。結果的にお願いまでしてしまう始末なのだから。

「でも……単純なんですけど、これで料理できるようになるかなって思ったんです」
「料理?」
「私、成川さんのご飯食べた次の日の朝ってすごく身体が軽いんです。目覚めもいいし、貧血もかなり良くなって」

 自炊の大切さを知り、インスタント食品はほどほどにしたほうがいいのかと今更ながらに学んだ。それでも数日に一回は頼ってしまうけれど。
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