恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
そんなことを望んでしまうことは良くないとわかってはいるけど、独り占めしたいと考えてしまうぐらい破壊力があるのだから仕方がない。
「じゃあ決まりですよ? 豚汁にしますからね?」
「わかった。橘は何入れるんだ」
「肉ですね」
ふ、とまたしても勢いよく笑われる。だからやめてもらえないかな。こんなにも見放題でいいのだろうか。
「メインだからな」
「忘れてはいけないですからね。あと長ねぎ……あ、成川さんは細ねぎ派ですか?」
「いや、長ねぎだな。それと人参と里芋か」
「あ、私は里芋の代わりにさつま芋を入れます」
「なるほど、甘いのもいいな」
そうしてふたりで具材を出し合って、取り入れるものを遠慮なく決めて、最後は味噌まで決まれば完璧だった。
「まだできてもないのに美味しそう」
「想像だけで満足すんな」
そう言われても、成川さんの手にかかれば美味しいに決まっている。あとは私が邪魔をしなければ問題ないはずだ。当日は、成川さんのサポートができるように徹底しなければ。
「いつ作るか決めるか」
「そうですね、来週の土日はどうですか? 忙しかったらその翌週でも」
「いや、来週の土曜日だな。遅くなっても次の日は日曜日だし」
……それは、夜遅くまで一緒にいてもいいと解釈してもいいのだろうか。
「あ、橘の意見聞いてなかったな。どっちがいい」
「私も来週の土曜日で! 日曜日も空いてます!」
「それじゃあ問題なさそうだな」
だめだ、ここには私が考えるようなよからぬ意味はないはず。ただ純粋に、ご飯を作るだけで。そう、お料理教室みたいなもので。
勘違いをしたらいけない。あくまでも一緒に豚汁を作るだけなんだから。
でも、夜……?
ということは、集合は夕方?
「何時がいい?」
聞かれハッとする。これは、何時と答えるべきなんだろう。もちろん午前中から空いてはいる。だからといってそう答えると、まるで朝から一緒にいましょうと誘っているようなものだ。
「ええと、成川さんは何時がいいですか?」
ここは成川さんに託すしかない。
「俺は何時でも」
……託せなかった。これは正直に、午前中と言い出していいものだろうか。でも午前中から豚汁? お昼には解散? 全然遅くなる気配がないし、日曜日にも響かない。
「橘」
すると成川さんに呼ばれた。
「朝から空いてないか」
「え?」
「付き合ってほしいところがあるんだけど」
その一週間、私はソワソワしながら仕事をこなしていた。
小林さんや七海さんたちの間でしっかりと板挟みになりながら、それでも踏ん張れたのは、この週末があったからだ。
土曜日がくれば、成川さんに会える。あろうことか成川さんと家庭料理を作るために午前中から会う約束をしているのだから。
職場で顔を合わすことはあっても、あくまで仕事だけの関係で成川さんも笑顔を見せることはなかった。だから会えなかったわけではないけれど、それでも距離があるのは否めない。
「お待たせしました」
指定された時間、以前会ったスーパーの近くには、艶やかな黒の車が静かに佇んでいた。
助手席の窓がスッと下がり、こちらを見た成川さんが顎を軽くしゃくって「入れ」と合図を送る。
その仕草に少し緊張しながらも、意気揚々とドアを開けて乗り込んだ。
「じゃあ決まりですよ? 豚汁にしますからね?」
「わかった。橘は何入れるんだ」
「肉ですね」
ふ、とまたしても勢いよく笑われる。だからやめてもらえないかな。こんなにも見放題でいいのだろうか。
「メインだからな」
「忘れてはいけないですからね。あと長ねぎ……あ、成川さんは細ねぎ派ですか?」
「いや、長ねぎだな。それと人参と里芋か」
「あ、私は里芋の代わりにさつま芋を入れます」
「なるほど、甘いのもいいな」
そうしてふたりで具材を出し合って、取り入れるものを遠慮なく決めて、最後は味噌まで決まれば完璧だった。
「まだできてもないのに美味しそう」
「想像だけで満足すんな」
そう言われても、成川さんの手にかかれば美味しいに決まっている。あとは私が邪魔をしなければ問題ないはずだ。当日は、成川さんのサポートができるように徹底しなければ。
「いつ作るか決めるか」
「そうですね、来週の土日はどうですか? 忙しかったらその翌週でも」
「いや、来週の土曜日だな。遅くなっても次の日は日曜日だし」
……それは、夜遅くまで一緒にいてもいいと解釈してもいいのだろうか。
「あ、橘の意見聞いてなかったな。どっちがいい」
「私も来週の土曜日で! 日曜日も空いてます!」
「それじゃあ問題なさそうだな」
だめだ、ここには私が考えるようなよからぬ意味はないはず。ただ純粋に、ご飯を作るだけで。そう、お料理教室みたいなもので。
勘違いをしたらいけない。あくまでも一緒に豚汁を作るだけなんだから。
でも、夜……?
ということは、集合は夕方?
「何時がいい?」
聞かれハッとする。これは、何時と答えるべきなんだろう。もちろん午前中から空いてはいる。だからといってそう答えると、まるで朝から一緒にいましょうと誘っているようなものだ。
「ええと、成川さんは何時がいいですか?」
ここは成川さんに託すしかない。
「俺は何時でも」
……託せなかった。これは正直に、午前中と言い出していいものだろうか。でも午前中から豚汁? お昼には解散? 全然遅くなる気配がないし、日曜日にも響かない。
「橘」
すると成川さんに呼ばれた。
「朝から空いてないか」
「え?」
「付き合ってほしいところがあるんだけど」
その一週間、私はソワソワしながら仕事をこなしていた。
小林さんや七海さんたちの間でしっかりと板挟みになりながら、それでも踏ん張れたのは、この週末があったからだ。
土曜日がくれば、成川さんに会える。あろうことか成川さんと家庭料理を作るために午前中から会う約束をしているのだから。
職場で顔を合わすことはあっても、あくまで仕事だけの関係で成川さんも笑顔を見せることはなかった。だから会えなかったわけではないけれど、それでも距離があるのは否めない。
「お待たせしました」
指定された時間、以前会ったスーパーの近くには、艶やかな黒の車が静かに佇んでいた。
助手席の窓がスッと下がり、こちらを見た成川さんが顎を軽くしゃくって「入れ」と合図を送る。
その仕草に少し緊張しながらも、意気揚々とドアを開けて乗り込んだ。