恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
お昼は近くの定食が楽しめるお店で食事をとり、帰宅してからは豚汁をメインに、成川さんといろいろな食事を作った。当たり前だけど、そのどれもが美味しくて、でもそれと同じぐらいに、成川さんの箸の使い方だったり、食べ方が綺麗で見惚れてしまった。
「箸、合わなかったか?」
「ッいえ、合います」
今さらではあるけれど、今日選んでもらった箸は、成川さんが使っている箸とデザインと同じものだった。でもそれは成川さんが無意識で選んでくれたもののはずで、大きな意味はない、と思う。
「豚汁、美味しいですね。最高です」
「俺も気に入った」
成川さんがどうかはわからないけれど、私はこの豚汁を作るたびに今日の時間を思い出すはずだ。
野菜を洗う腕の血管や、味見をするときの顎のライン。そのどれもが目に焼き付いてしまって、邪魔をしないどころかほとんど役にも立たなかった。
唯一、味見のときぐらいで、それでも私が意見を出すこともなく成川さん作の豚汁は美味しいに決まっていた。
食後の食器を片付けていると、「飲めるか」と成川さんがふいに聞いてきた。
「すごく強くはないですけど、少しなら」
「そうか」
成川さんは冷蔵庫の中から缶ビールを取り出すと、さっと何かを作りはじめた。
スライスしたきゅうりに塩昆布とごま油を和えたもの、トースターから香ばしい音とともに出てきたチーズトースト、そしてトマトと生ハムの簡単な前菜。
どれも時間をかけずにできるものばかりなのに、テーブルに並ぶと、まるでちょっとしたバルのようだった。
「お店みたいですね」
「橘は俺が何作っても褒めるんだろうな」
「それはそうですよ! お店出してほしいって本気で思ってるんですから」
常連になる自信はある。それに、お店だったら成川さんに理由がなくても会いに行ける。
「……楽しいな、今日」
グラスをテーブルに置きながら、ぽつりとこぼした自分の声が、思っていたより大きく響いた。
「ならよかった」
そう言ってくれた成川さんは、楽しかっただろうか。心配にはなるけど聞けない。
切り替えるように、「あーあ」と声を張り上げてみる。
「まだ明日も休みなのに、月曜日のこと考えると憂鬱です。この症状どうにかならないんですかね」
「大半が思ってることだろうな」
「会社がなくなってますようにとか、成川さんも思ったりします?」
「思うね、取引先も全部吹っ飛んだらいいって。特に面倒な場所ほど」
「成川さんでもそんなこと思うんですね、意外です」
「人間だからな」
それもそうか。どこか超人的な存在のように思ってしまうときもあるけど、成川さんも私と同じひとりの人間だ。
「箸、合わなかったか?」
「ッいえ、合います」
今さらではあるけれど、今日選んでもらった箸は、成川さんが使っている箸とデザインと同じものだった。でもそれは成川さんが無意識で選んでくれたもののはずで、大きな意味はない、と思う。
「豚汁、美味しいですね。最高です」
「俺も気に入った」
成川さんがどうかはわからないけれど、私はこの豚汁を作るたびに今日の時間を思い出すはずだ。
野菜を洗う腕の血管や、味見をするときの顎のライン。そのどれもが目に焼き付いてしまって、邪魔をしないどころかほとんど役にも立たなかった。
唯一、味見のときぐらいで、それでも私が意見を出すこともなく成川さん作の豚汁は美味しいに決まっていた。
食後の食器を片付けていると、「飲めるか」と成川さんがふいに聞いてきた。
「すごく強くはないですけど、少しなら」
「そうか」
成川さんは冷蔵庫の中から缶ビールを取り出すと、さっと何かを作りはじめた。
スライスしたきゅうりに塩昆布とごま油を和えたもの、トースターから香ばしい音とともに出てきたチーズトースト、そしてトマトと生ハムの簡単な前菜。
どれも時間をかけずにできるものばかりなのに、テーブルに並ぶと、まるでちょっとしたバルのようだった。
「お店みたいですね」
「橘は俺が何作っても褒めるんだろうな」
「それはそうですよ! お店出してほしいって本気で思ってるんですから」
常連になる自信はある。それに、お店だったら成川さんに理由がなくても会いに行ける。
「……楽しいな、今日」
グラスをテーブルに置きながら、ぽつりとこぼした自分の声が、思っていたより大きく響いた。
「ならよかった」
そう言ってくれた成川さんは、楽しかっただろうか。心配にはなるけど聞けない。
切り替えるように、「あーあ」と声を張り上げてみる。
「まだ明日も休みなのに、月曜日のこと考えると憂鬱です。この症状どうにかならないんですかね」
「大半が思ってることだろうな」
「会社がなくなってますようにとか、成川さんも思ったりします?」
「思うね、取引先も全部吹っ飛んだらいいって。特に面倒な場所ほど」
「成川さんでもそんなこと思うんですね、意外です」
「人間だからな」
それもそうか。どこか超人的な存在のように思ってしまうときもあるけど、成川さんも私と同じひとりの人間だ。