恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
■成川side

 気付いてほしいと、思っていた。

「湊、ごめんね」

 タクシーの中で、日向が申し訳なさそうに頭を下げる。どうやら酔いが醒めたらしい。

「酔っ払いを介抱するのは今に始まったことじゃないだろ」
「そうじゃなくて……、さっきの子に、誤解されたくなかっただろうなって」

 ああ、逆に日向は俺の心境に気付いているらしい。それもそうだ、中学からの親友で長いこと時間を共有してきた。

「別に、お前が気にしなくていい」
「気にするよ。湊、自分が今どんな顔してるかわかってる?」

 さあ、と流して窓の外を眺める。こんなやつ、ひとりで帰らせたところで問題はなかっただろう。けれど、それを全部説明するとなるとややこしかった。
 だから気付いてほしかった。
 橘が誤解するような関係では一切ないと。事情をわかってもらえれば、きっとこんな心配はしなくてよかったはずだ。

「んで、何があったら店であんな酔いつぶれるんだよ」
「恋人に振られちゃって。いい人だと思ってたんだけど、四股だよ、四股。さすがに頭にきて」
「ぶん殴ってきたのか」
「もちろん。ボコボコにしてきた。そしたら最後になんて言ったと思う?」

 聞かなくてもわかる。あえて黙っていれば、我慢できないかのように日向が声を張り上げた。

「〝俺は綺麗系の男の子が好きだったのに騙された〟って。はあああ?じゃない? こっちは今まで可愛くいただろうよって」

 最近ファッションの好みが変わったとは思っていたが、好きな男のために、男が何かと奮闘した結果らしい。

「それにしても、湊ってば、あの子に言えばよかったのに」
「何を」
「俺が男だって。知らなかったと思うよ?」
「わざわざお前が男だって、あの一瞬で説明するほうがおかしいだろ」

 まるで、橘に好意があるから、必死で取り繕っているみたいだ。
 それに日向が嫌がるかもしれないと思った。自分が抱えているものを、そうペラペラ人に話されたくもないだろう。

「変わらないよね、湊って」

 足を組む日向は、はたから見れば女にしか見えない。けれども、戸籍上は男で、あくまでも格好だけだ。もちろん、俺たちに恋愛感情も一切ない。

「肝心なことは何も言わない」
「お前に何がわかるんだよ」
「わかるよ、どれだけの付き合いだと思ってるの」

 人生の半分以上は、こいつと一緒にいる。それでも、恋愛について話したことはない。それを日向もわかっているからこそ、あえて話題にもしてこなかった。

「あの子は特別?」

 聞かれて、口を開きかけて、やめた。
 ぐるぐると考えていることを垂れ流したところで、日向に解決されそうで納得がいかない。

「じゃあ聞き方を変えるけど」

 隣で、挑発するような声が聞こえる。こいつはやっぱり、ひとりで帰らせればよかった。

「誰かに取られるって想像して」
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