恋のレシピは、距離感ゼロで無口な先輩と
腹が立って横を見ると、「あ、怒った」と愉快そうに笑う。佐々木といい、俺の神経を逆なでする人間が多い。
「はあ、でもよかった。湊が恋愛に前向きで」
「そういうわけじゃない」
「なんで? オブラートに包むけど、気になってるんじゃないの?」
日向の声は、どこまでも軽やかだった。
昔からそうだ。どんな話題でも肩の力を抜いたまま、核心を突いてくる。
「恋愛はしない」
言い切った声が、思っていたよりも硬くなったのが自分でもわかった。
「向こうも……そういう人だと思ってる」
日向が、ふうん、と短く鼻を鳴らした。
「全員が全員、湊の家柄を見てるわけじゃないってことはわかってると思うんだけど、本当にわかってる?」
「言ってることが矛盾してるぞ」
「矛盾してるよ。だけどさ、湊が恋愛しないって決めたのは、昔の女の子たちが原因なわけじゃん? 湊の家柄を知って近づいてくるような」
思わず眉間に力が入る。もし俺が、叔父の本当の息子だったら、ここまで考えなかったかもしれない。けれど俺は継ぐ気はない。そんなあってないようなものに近づいてこられたところで、相手と真剣に向き合う気は失せる。
「湊にはどうしても、そういう要素を含めて近づいてくる子は多かっただろうし、そうじゃなくても湊に近づきたい子はたくさんいたと思うよ」
でもさ、と日向は窓ガラスの向こうに視線を投げる。
「全部そうだと思い込んだらもったいないよ」
「……そういうふうにできたら、苦労しない」
そう簡単に割り切れるものではないからこそ、橘との向き合い方にストッパーが入る。このままでいいのか。身を委ねても問題ないのか。
「湊は人に見られ慣れてるから、気づきにくいだけなんだろうけど。全部が家柄だからって受け止めてたら、本当に見たい人まで見逃しちゃうと思うよ」
見てないわけではない。それでも、図星だ。見ないようにしていたところもある。
「誰にも触れなければ、傷つくこともない。でも、それってさ……」
「うるさい」
言葉を遮ったが、それでも日向の声は止まらなかった。
「好きなものを見てるときの湊の顔くらい、俺にはわかるんだけどな」
その言葉に、思わず眉をひそめた。
「なんで、あんなに優しく撫でちゃうんだよ。あの子のこと」
ピクリと手が止まる。見てたのか、酔いつぶれていたのかはっきりしてほしい。いや、性格だけは一部腐っているから、それも込みで大泣きの演技でもしたのだろう。俺を挑発するために。
「無意識でやってるなら、なおさらタチが悪い。線引きするくせに、ほんの少しの隙間を開けたりするんだから。それならいっそ、二重でも線を引かないと、誰かを傷つけることになるよ」
じゃあ、と到着した場所でタクシーを降りた日向は、くるりと振り返った。
「介抱してくれてありがとう。そこだけは感謝する」
嘘つけ。そんなこと思ってもねえだろ。毒を吐きかけて、タクシーを走らせた。
玄関の鍵を開け、靴を脱ぎながらため息をつく。
タクシーの帰り道は妙に静かだった。
日向の言葉が頭の中で反芻されて、やけに響く。
「はあ、でもよかった。湊が恋愛に前向きで」
「そういうわけじゃない」
「なんで? オブラートに包むけど、気になってるんじゃないの?」
日向の声は、どこまでも軽やかだった。
昔からそうだ。どんな話題でも肩の力を抜いたまま、核心を突いてくる。
「恋愛はしない」
言い切った声が、思っていたよりも硬くなったのが自分でもわかった。
「向こうも……そういう人だと思ってる」
日向が、ふうん、と短く鼻を鳴らした。
「全員が全員、湊の家柄を見てるわけじゃないってことはわかってると思うんだけど、本当にわかってる?」
「言ってることが矛盾してるぞ」
「矛盾してるよ。だけどさ、湊が恋愛しないって決めたのは、昔の女の子たちが原因なわけじゃん? 湊の家柄を知って近づいてくるような」
思わず眉間に力が入る。もし俺が、叔父の本当の息子だったら、ここまで考えなかったかもしれない。けれど俺は継ぐ気はない。そんなあってないようなものに近づいてこられたところで、相手と真剣に向き合う気は失せる。
「湊にはどうしても、そういう要素を含めて近づいてくる子は多かっただろうし、そうじゃなくても湊に近づきたい子はたくさんいたと思うよ」
でもさ、と日向は窓ガラスの向こうに視線を投げる。
「全部そうだと思い込んだらもったいないよ」
「……そういうふうにできたら、苦労しない」
そう簡単に割り切れるものではないからこそ、橘との向き合い方にストッパーが入る。このままでいいのか。身を委ねても問題ないのか。
「湊は人に見られ慣れてるから、気づきにくいだけなんだろうけど。全部が家柄だからって受け止めてたら、本当に見たい人まで見逃しちゃうと思うよ」
見てないわけではない。それでも、図星だ。見ないようにしていたところもある。
「誰にも触れなければ、傷つくこともない。でも、それってさ……」
「うるさい」
言葉を遮ったが、それでも日向の声は止まらなかった。
「好きなものを見てるときの湊の顔くらい、俺にはわかるんだけどな」
その言葉に、思わず眉をひそめた。
「なんで、あんなに優しく撫でちゃうんだよ。あの子のこと」
ピクリと手が止まる。見てたのか、酔いつぶれていたのかはっきりしてほしい。いや、性格だけは一部腐っているから、それも込みで大泣きの演技でもしたのだろう。俺を挑発するために。
「無意識でやってるなら、なおさらタチが悪い。線引きするくせに、ほんの少しの隙間を開けたりするんだから。それならいっそ、二重でも線を引かないと、誰かを傷つけることになるよ」
じゃあ、と到着した場所でタクシーを降りた日向は、くるりと振り返った。
「介抱してくれてありがとう。そこだけは感謝する」
嘘つけ。そんなこと思ってもねえだろ。毒を吐きかけて、タクシーを走らせた。
玄関の鍵を開け、靴を脱ぎながらため息をつく。
タクシーの帰り道は妙に静かだった。
日向の言葉が頭の中で反芻されて、やけに響く。