天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
レオンはその次の夜も、それ以上何も言わなかった。

虹の絵。テレビの中で話題になる“L”というアーティスト。
その色も、構図も、目に焼き付いている。

あのスプレーの感触。
レオンが利き腕を使えず、右手で必死に描いていたあの姿が、今も記憶の奥にある。

(……やっぱり、あれはレオンの絵だった)

でも彼は、名前を明かさない。
笑ってごまかす。
テレビに自分の絵が出ているのに、どこか他人事みたいに。

咲良は、そっと目を伏せた。

(なんでだろう……)

さっきまで感じていた甘さが、少しだけ遠ざかった気がした。

目の前にいるのに、触れられない。
レオンの「本当の場所」は、もっとずっと高くて、広くて。
自分の知らない世界の、もっと奥にあるんだって、はっきりしてしまった。

「……君は、すごい人なんだね」

ぽつりと、咲良は言った。

レオンはティーカップを傾けたまま、小さく笑った。

「僕のどこが?」

「わかるよ。見てれば。……描くときの目が、本気だから」

「君を描いてるときが、一番本気だよ」

その答えは、どこまでも甘かった。
けれど──

(……でも、きっと。わたしからは「遠い」人)

そんな言葉が、心のどこかに浮かんだ。
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