天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約
部屋の灯りが少し落とされて、夜が深まっていた。

咲良はベッドの縁に腰かけたまま、足を揺らしていた。
バスローブを羽織った肩先には、まだレオンの視線の余韻が残っているような気がした。

「……黙っててごめんね」

突然、レオンが言った。

「“L”のこと。君は気づいてたのに、僕は……なにも言えなかった」

咲良は驚いて顔を上げた。

レオンはソファに座り、スケッチブックを閉じた手をそっと膝に置いている。

どこか、すこしだけ不安そうな目だった。

「君には、嘘をつきたくなかった。
 でも……名前を明かすと、距離ができる気がしたんだ。
 君が、ただの『有名人』を見るような目になったら、たぶん僕、描けなくなる」

咲良は、なにも言わなかった。
けれど、その胸の奥が、じんわりとあたたかくなるのを感じていた。

「君が、誰かの目を気にせずに笑ってるとき、
 君の線はとても自由になる。……それがうれしい」

「線?」

「うん。体のラインだけじゃない。君の心の輪郭。
 それが見えるとき、僕はほんとうに幸せなんだ」

彼の声は、決して押しつけがましくなくて、ただまっすぐだった。

どこまでも優しく、誠実で。
でも、それ以上に──

(こんなふうに「見られる」って、どうしたら慣れるんだろう)

咲良は、胸の奥でそっと思った。

こんなに丁寧に心を見られたのも、
こんなにまっすぐに「幸せだ」と言われたのも、たぶん、初めてだった。
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