天才画家に描かれて、毎晩とろけそうです ―スイートルームで始まる、芸術と恋の独占契約

第3話 ピンクダイヤモンドが輝く夜

完成した絵は、窓辺に立てかけられていた。

まだ薄暗い明け方の光が、室内に静かに滲み込んでいる。
スケッチの中の咲良が、淡く微笑んでいるように見えた。

レオンはその前に立ち、じっと絵を見つめていた。

「綺麗すぎる」という言葉じゃ足りない。
咲良はその後ろ姿を、ただ黙って見つめていた。

──どうして、この人にこんなにも惹かれるのか。

「……描けてよかった」

低く澄んだ声が、空気をふるわせる。

咲良は隣に並び、完成したスケッチをのぞき込んだ。
そこにいたのは、確かに「自分」だった。
けれど、自分でも知らないような、凛としてやさしい顔をしていた。

「……なんで、そんなに私を描きたいの?」

ぽつりとこぼれた問いに、レオンは静かに答えた。

「きみは、僕の光だったから」

「光?」

振り返ったレオンの瞳が、まっすぐ咲良を射抜く。

「描くことは、僕にとって生きることだった。でも、ずっと……息をしてる気がしなかった。
 君を描いたとき、はじめて心の奥に風が吹いたんだ」

言葉は詩のようだった。
くるくるの髪が頬にかかる。まるで古典絵画の天使のように美しい──それでいて、目だけは人間味にあふれていた。

「……君が、僕を呼吸させてくれたんだ。だから、君を描けて……本当に、幸せだった」

咲良は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。

こんなにも美しくて、遠くて、完璧に見える人が。
こんなにも優しい目で、自分のことを見ている。

「……そんなふうに言われたの、初めて」

「僕もだよ。誰かに、こんな気持ちを話すのは」

白む空の向こうで、新しい一日が始まろうとしていた。
咲良の心にも、それは似たような光で満ちていた。
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